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第21話

―豊side― 「昨日は随分と、いい思いをしたようね。顔が緩んでるわよ?」  自室に出勤してきた佐藤が部屋に入るなり、デスクに座っている麗香さんが口を開く。本来なら、佐藤が座るべき椅子に麗香さんが座っている……それに気を取られて、入り口横に立っていた俺には気づいている様子はなかった。 「美作所長……おはようございます。いつもよりお早い出勤で」 「昨日、夜遅くに小林から連絡があって……あることを相談されたのよねえ。貴方について……で、直接、貴方に聞かないことには拉致があかないし。こじれるもの困るから、まだ人が出そろってない朝に聞こうかと。なんだか、証拠があるんでしょう?」 「小林……から? 証拠? なんのことだが」 「証拠……あるんでしょう?」  ガンっと俺はわざとドアを蹴って、ドアを閉めた。その音にびっくりしたのか、ビクッと肩を跳ねあがらせてから佐藤が振り返る。 「強姦……したんだろ? 昨日……すべて聞いた」  俺がドアを背にして仁王立ちになると、腕を組んだ。 「な、なんのことか? 小野寺の勘違いじゃ……」 「証拠あるんでしょ?」  麗香さんが足を組んで、にこっと笑う。 「だから……そんなもの」 「ねえ、小林……証拠、あるんでしょ?」 「ああ。ある」 「なっ。何を根拠に、そんなことを。小野寺のような新人弁護士の言うことなど。証拠はないはずだ」 「佐藤、さっきから何を言っているの? 小野寺がなに? 私は小林に証拠の有無を聞いてるの!」 「……え? 小野寺……じゃない?」  わけがわからないと言わんばかりの顔だ。まあ、麗香さんも小野寺の一件を思わせるような口ぶりだからいけないけど。スマホを取り出すと俺は、あらかじめ立ち上げていたデータの再生ボタンを押した。 『やだっ! やめてって言ってるでしょ!』 『こういうのが好きなんだろ?』 『先生っ……やだっ。入れないでっ。やっ……きゃあああ』  室内に悲鳴が響いたところで俺は停止ボタンを押した。 「昨晩、知り合いから相談されて。強姦されたと。無理やり……中に、出された、とか。店で声かけられたときに名刺をもらっていたらしくて、相手はすぐに特定できたんだが……うちの事務所にとってこれは……非常にまずい」 「そ……それは、ちょ……誤解です!」 「さらに、写真まであって。そいつ、抱くまえに大金を見せびらかして、女を惑わしてる。酒をたくさん飲ませた挙句、前後不覚の女性をホテルへ……ねえ、佐藤さん。覚えているでしょう? 貴方は一滴も飲んでない」  俺は印刷したばかりの写真を数枚、デスクの上に投げた。 「ち……違います、所長……これにはちゃんと理由がありまして……ってか、小林、図ったな! ハメやがって」 「なんのことだか? うちの事務所として訴訟は大きな痛手です。彼女にはちょっと待ってもらうように言いましたが……ショックが大きく、朝一で相談したいと。九時半に約束しました」 「そうね。無理やりは……心のショックも大きいでしょうし」

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