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第22話

「待て。そういう店だろ、あそこは!」 「佐藤、聞き捨てならないわね、その言葉。そういう店ってどういうこと? ちょっと女を馬鹿にしてるんじゃない?」 「違います、所長。信じてください。断じて、無理やりでは……同意のもとです」  デスクに手をついて、佐藤が叫びように声をあげた。 「ならどうして、彼女は九時半に相談にくるのかしら?」 「こいつが……女とグルになって」 「ああ、もう一度聞いてみます?」  俺はそう言いながらスマホを取り出して、再生ボタンを押した。 『んーー! やめっ……痛い……いたっ……やだ……』 『嫌じゃないんだろ? これが好きなんだろ? 毎晩。小林のを咥え込んで離さないんだろ?』 『や……くそっ……出せ……やめ……』 『ああ、出してやるよ。お前の奥に、俺の精液をな』 『……やだっ、出すなっ……』  流れた音声に佐藤の顔が真っ青になっていく。 「やだ……これ、小野寺君の声じゃない?」  白々しく麗香さんが口を開き、じろっと佐藤を睨みつけた。 「ああ、これ……俺のスマホじゃないや。事務所に落ちてて……拾ったやつだ。これ……あんたのだろ?」 「な……んで。昨日、ちゃんと抽斗に」  麗香さんの隣に行って、鍵の付いている抽斗のロックをあけて中を確認していた。 「……きさまぁ」 「そう、小野寺君を無理やり。で、女性も無理やり、ねえ」 「所長! ほんとに……違うんですっ」  麗香の膝にしがみつくと、髪を振り乱して首を振った。 「ああ、タイムリミット、だ。女性が来た……って、一緒にエレベータに乗ってきた人って……見覚えがあるな」  俺の言葉に所長と佐藤の目が動く。佐藤の目が飛び出さんばかりに開いた。俺はドアの横に移動すると、ズンズンと突き進出くる佐藤の奥さんのためにドアを開いた。 「こんのぉ……クズ男っ! 最低、なんなの? どんだけ外に女がいるわけ? 離婚よ、離婚!」 「ちょ……なんで?」 「奥様、感情的にならないで。お話はあちらで聞きます。所長室でゆっくりと。離婚協議、私が力になりますわ」  麗香さんが佐藤の奥さんの肩を抱くと、優しい声をかけながらオフィスを出ていった。  茫然と魂の抜けた表情で、床に尻をついた佐藤が「なんで」と呟き、床を叩いた。  俺は佐藤の前に立って見下ろしてから、膝を折って、あいつの髪を思い切り引っ張ってやった。 「手を出す相手を間違えてんだよ。馬鹿か、クソ野郎。人を貶めたいなら徹底的にやれよ。中途半端にしか出来ねえんなら、俺を毎晩咥えて離さねえ奴に手を出すな。わかったか?」 「……」 「わかったのかよ? クソ野郎」  視線を逸らす佐藤に、さらに髪を引っ張った。 「……は、い」  微かながらに返事をしたのを聞いて、俺は立ち上がった。 「被害女性についはどうする?」 「……え? ああ……和解条件を、聞いて……ください」 「わかった。伝えておく」  終わったな――。  俺は佐藤のオフィスを出ると、ホッと息をついた。

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