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「なんっで俺がメイド服を着なきゃいけないんだよ!」 「面白いからに決まってるだろ」 ほくそ笑む男は瀬崎皇我(こうが)。この学園の生徒会長だ。そしてメイド服を着せられて叫んでいる凡庸な眼鏡の男は風紀委員長、佐々木大翔(ひろと)である。  ここは中高一貫のとある全寮制男子校。もともと高等部での生徒会入りを目指して励んできた大翔は、こつこつと人望を集めこの秋から晴れて生徒会役員になるはずだった。皇我さえ転入して来なければ。  生徒会選挙の直前で転入してきた皇我はその眩い容姿と彼の親のステータスにより、圧倒的な支持を得て生徒会長に選ばれた。そしてぎりぎりの位置だった大翔は落選してしまったのだ。その結果自動的に、大翔は不本意ながらも風紀委員長に選ばれた。  この学園の風紀委員は風紀の取り締まりをするほか、生徒会の暴走を監視する立場でもある。その役割と前述したとおりの皇我への個人的な恨みから、大翔は皇我と今やすっかり犬猿の仲なのだった。  そして選挙から一ヶ月後の十一月。末に文化祭が開催される。大翔のクラスはメイド&執事喫茶に決定していた。メイドは中性的な顔立ちの生徒が担当することになっていたので、平均的な男子高校生の容姿である大翔は執事のコスプレをする予定だった。  しかし文化祭当日、大翔に渡されたのはサイズがぴったりのメイド服だった。誰の仕業かなんて聞くまでもない。しぶしぶ袖を通した大翔の元に、客としていの一番に皇我がやってきた。 「お帰りくださいませ七光り様ー」 「お帰りなさいませ、だろうが」 「うるさい七光り。さっさと帰れ」 大翔は皇我のことを侮蔑の意を込めて七光りと呼んでいる。 「口が悪いな。声も低すぎる。メイドをナメるな」 「俺はメイドをナメてるんじゃなくてお前をナメてんの」 「この俺にケンカ売ろうってのか? いい度胸だな。どのみちてめえには教育が必要だ、バックヤード借りるぜ」  皇我が大翔の肩を掴みながら大翔のクラスメートに声をかけると、クラスメートは茹で上がったタコのように赤面して大きく頷いた。皇我は恐ろしく整った顔とスタイルを持っており、この学園にいるほぼ誰しもが皇我の虜と言っても過言ではない。事実、皇我に連行されそうになっている大翔に嫉妬と羨望の眼差しを向ける者も多くいた。  バックヤードには食材の段ボールが所狭しと並んでいたが、二人立ち話ができるくらいのスペースは辛うじてあった。皇我は先に入り、大翔を入室させると腕を伸ばしてドアを閉めて鍵をかけた。そして大翔の顔の横に右手をつき、左手で彼の肩を押さえた。

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