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「せっかく可愛いメイド服を用意してやったのにこんな態度じゃ台無しじゃねーか」
「可愛い!? エロいの間違いだろうがこの変態! なんで俺だけガーターベルト付きなんだよ」
そう、大翔に渡された衣装にだけガーターベルトが付属していた。大翔の太くも細くもない太股の中央に走る黒のレースは、見た者が見とれるほど妖艶なわけでも逆に面白くて笑えるわけでもなく、ただ大翔の羞恥をあおるだけのものだった。
「フツメガネの嫌そうな顔が見たかったからな」
皇我は大翔のことをフツメガネと呼んでいる。フツメン(普通の顔)と眼鏡を合わせてフツメガネ、らしい。皇我は大翔のガーターベルトに手を伸ばし、それをぴんと弾いてみせた。
「おい、どこ触っ……!」
「どこって太股だろ。お前は太股の名称すら知らねーのか低脳」
「そういう意味じゃ、あっ」
皇我は大翔のガーターベルトをなぞるように太股を撫でた。くすぐったさに大翔の声が裏返る。皇我は上機嫌そうに喉の奥をくつくつと鳴らした。
「高い声出るじゃねーか」
「お、お前が変なとこ触るから」
大翔はさっきから皇我の暴挙を食い止めようと必死に抵抗しているのだが、皇我の身体能力が大翔のそれを遙かに上回っていてまったく追いつけず、振り払われてばかりいた。狭い狭いバックヤードでの攻防戦、身長差はさほどない二人だが、大翔は皇我にまるで歯が立たないのだった。
「もっとちゃんと高い声出せるようにしないとな?」
そう言うと皇我は左手で大翔の腰を支え、右手で大翔の胸元のリボンをほどき、ボタンを上から一つずつ外し始めた。
「は!? ちょ、ちょっと、マジでやめろマジで」
大翔は動揺しながらも皇我の手首を掴もうとしたのだが叶わず、逆に指を絡め取られて恋人つなぎのようにされてしまった。
「大翔」
「っ……!」
ふいに名前を呼ばれてあからさまに動揺してしまった。皇我の右手が大翔の左手に繋がっている今ならこの状況を打開できたかもしれなかったのに、大翔は抵抗できなくなってしまった。
そんな大翔の様子に気がついたのか、皇我はつないだ右手をそっとほどき、あらわになった大翔の薄い胸板に指をすべらせた。異様な雰囲気にのまれて自分の息が荒くなっていくのがわかったし、レンズ越しに見える皇我の瞳もだんだんと熱を帯びてきている気がして、くらくら視界が歪むような気がした。もちろんそれは大翔の視力のせいではなかった。
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