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第1話 (Ⅰ)
Ⅰ
ルーティア王国に攻め入るローレニア帝国のたくさんの兵隊。それらを食い止めるために最前線で戦う魔法使いのΩ たちは、何もできないままローレニアの兵士たちに次々と捕縛されていった。
錆 びた銀のように鈍く光る岩に囲まれた地形。恐らくそれが影響しているのだろう。魔法を使うことができず、皆はただその場に立ち尽くすことしかできない。
弱いΩは魔法が使えなければ、圧倒的弱者だ。相手がα であれば、抵抗したとしても十分の一以下の人員で楽に捕らえる事ができるだろう。
「くそ…っ、こんなとこで……! 俺はまだ、なんも活かせてないのに!」
リアムは叫びながら腰からダガーを引き抜き構える。
「ここは魔法が使えない! 場所を変えなきゃダメだ。直対するしかないぞ!」
この中でもトップクラスの魔力を持ち、判断力の優れているリアムはすぐに不利な地形だと気づき、皆にもそれを促す。
だが、そうしたところで、力も剣術も相手の兵士の方が何枚も上手で、仲間たちは呆気なく捕まってしまう。それも、彼らには傷一つ付けずに、だ。手加減までされているのが腹立たしい。
(大丈夫だ、もう少しすればαの兵が来る! それまで持ちこたえれば……!)
リアムは気を取り直して、攻撃を交わす。だが、待てども待てども自国の兵隊が来る気配はない。
(そろそろ姿が見えてもおかしくない。何をやってるんだ…!? このままじゃ先輩たちみたいに──)
リアムは一六〇センチの小柄な体型を活かし、すばしっこく逃げ回り抵抗するが、体力は限界近い。さらに視界の端で親友のノアが捕らえられるのを見てしまい、対応が僅かに遅れた。
(ノア……!)
『随分と余裕だなぁ?』
「っぐ…!」
腹を剣の柄で突かれ、よろけたところをそのまま捕らえられる。しかし、そう易々と捕まるリアムではない。ダガーを胸元で構え直し、全体重をかけて相手の胸を一突きする。
『っ……っと、あっぶねー』
だが、相手がすんでのところで身を翻 したので、脇腹を少し掠っただけだった。そのまま手首を掴まれダガーは取り上げられる。
転がり落ちたダガーが岩の上でカランと音をたて、それが耳の中で木霊 した。
『ったく、ちょこまか動きやがって』
身一つになったリアムはこれ以上抵抗しても無駄だと悟り、がくりと項垂れ、相手の隙を探りつつも大人しく捕縛される。
両手首を縄で一纏めに、さらに胴体にも縄を回される。その縄にはローレニア帝国軍の紋章が入っていることから、魔法封じの繊維を撚 って作られているのが分かった。
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