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第2話

 魔法封じの道具は、形は様々あるが、効用は主に三種類だ。なかでも、呪文などを唱えてもそれを無効にする物、魔力そのものを吸い取る物の二種類は一般に広く出回っている。  そして、魔法を使うと魔力を体外に出せず自分に返ってくる物。これは魔力が形となる前に返ってくるので、傷などはできないが衝撃と痛みはそのまま感じる。  主に軍隊や奴隷を支配する者の間で使われており、今使用された縄もおそらくこれで間違いないだろう。 『一人残らず捕らえろ! 騎兵隊は帰路を塞ぐんだ!』  馬に乗った兵士たちが道を塞ぎ、いち早く逃げ出そうとした者もその道を断たれてしまう。 『許して…! 命だけは…! 小さな妹がいるんだ、頼むから……っ』 『なら、この場へ来たのが間違いだ』  仲間の必死の叫びも虚しく、彼はきつく縛り上げられる。それでも尚、拙いローレニア語で懸命に命乞いするが、無慈悲なローレニア人には効果がなかったようだ。 『これしか……生きるためにはこうするしかなかったんだ……!』 『──ふん。Ωに生まれたことを悔やむんだな』  α然とした男は憐れむような、蔑むような目を向けてそう言うと、彼を皆のいる所まで歩かせて座らせた。 (なんでαはこないんだ? 俺たちΩは見捨てられたのか……?)  リアムはそんなことを考えながら周囲の様子を注意深く観察する。自国の優秀な兵隊の姿は未だ見えないし、視認できる範囲では仲間は全員捕まり、縛られている最中の者が数人いる程度だった。  もしかしたらどこかに身を潜めている者もいるかもしれないが、可能性は限りなくゼロに近いだろう。αやβ(ベータ)よりも華奢で、体力も力も劣るΩが敵うはずもない。  人間と獣人が共存しているこの世界では、男女の他にα、β、Ωの三種類の性があり、カーストが根強く残っている。αは社会的地位の高い者が多く、全体の二割を占めており、βは極々普通でこの性が世の中の七割を占めている。  そして、Ωは体が華奢で月に一度五日から一週間程度の発情期があるため、まともな職には就けず社会的弱者の扱いだ。男性でも妊娠できるのが特徴で、Ωは発情期中にαに項を噛まれると、(つがい)となり番以外の人と性交ができなくなるとされている。  近年このΩに魔法が使える者が増え始め、今ではほとんどのΩが魔力を持っている。カースト最下位のΩだが、魔法を上手に使いこなして商売をしたり、こうして戦に出たりと、αと対等にやっていく人も少しずつ増えていた。  攻め込んでくるローレニア帝国を撃退するため、ルーティア王国では養成所に力を入れ、魔法使いの指導育成をしている。魔法使いはみんなの憧れ的存在で、養成所には逆転人生を夢見る者の応募が絶えない。  リアムも魔法使いに憧れたうちの一人で、十二才でスカウトされて入所し、およそ六年間勉強し鍛錬し続けてきた。だが、今日この一瞬でその努力は水の泡となった。

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