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第3話

『──全員捕らえました!』  ローレニア帝国軍のその言葉を聞き、魔法使いたちの顔から生気が抜ける。  覚悟を決め俯く者、絶望して泣き叫ぶ者、自分だけは助かろうと()びを売る者と様々だ。  せめて魔法が使えれば。自国の兵隊が来なくとも、敵兵の足止めをしながら弱い者を逃がし、助けを呼びに行けただろう。  そうすれば全員助かったし、国への侵入も防げた。だが、そんなことを考えても現実は変えられないのだから仕方ない。  リアムも覚悟を決め歯を食いしばる。  すると、ザリ、ザリ、と石ころをはじきながら、一人の兵士が目前に立ち止まった。 『──お前、名前は?』 「…………」  なんのために名前なんて聞くのだろう。(いぶか)しみながら、相手の問には答えず、様子を探ろうと瞳をじっと見る。 『早く答えろ。でないとこいつを殺す』  そう言って近くに捕縛されていた仲間の首筋に剣の刃先をピタリと当てる。 「ひっ、やめろ、こいつは──」 『リアムだ。リアム・アーレント』  震える仲間の声に重ねるように、力強く、静かに答える。(はた)から見れば落ち着いているようにも見えるが、仲間の死を連想して心臓はバクバクと早鐘を打っている。 『やはりお前か。立て。──ルイ様の元へお連れしろ!』 (なんだ……?)  立たされて前後に兵がつき、胴に巻きつけられた縄の端を強く引っ張られる。容赦なく、ぐいぐい引っ張るものだから、高低差のある岩場では足を何度も引っ掛けそうになった。 『おい、大事に扱え。奴隷とはいえ、ルイ様のものだ』 (……ああ、奴隷にされるのか)  兵士たちの言葉でそれなりに身分の高いルイとかいう人の奴隷になるのだと悟る。  話し方からして、元からそうなる手筈(てはず)だったのだろう。名前を知っていたのも魔力がトップクラス故だろうか。  だとすれば人間兵器として、闇道具で魔力を搾り取られ無理やり使わされるのかもしれない。  魔法の原理は解明されておらず、道具に魔力を貯えたりすることはできないが、闇取引されている物に、魔力を持つものに装着している間、その者の魔力を使って、Ω以外でも自由に魔法を使える物があると聞く。  Ωの人権保護の観点や、人間兵器の危惧から流通していないが、使用しても罰則がないので闇市で取引されているようだ。そんな物を使われたら……と考えるだけで恐ろしい。  もしかしたら気の強いΩを慰み者にする、という巷で流行っている金持ちの道楽かもしれない。どちらにしてもまともな生活は送れないだろう。  それなら死んだ方がマシだ。とも思うが、何一つ成せずにこのまま終わるなんて愚かなことはできなかった。  生きていればきっとまた逆転のチャンスはある。  国境近く、よりローレニア帝国側の方へ行くと、他の兵とは服装が違う一際目立つ男がいた。きっとこの男がルイなんだろう。

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