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第10話

 そうして少し休み気持ちを切り替えた後、改めて部屋を見回した。  壁など古くなって傷んでいる部分はあるものの、清掃は隅まで行き渡っており清潔だし、やはり寮の一人部屋とほとんど同じだ。  とても奴隷に与えられるような部屋ではないし、監視があるとはいえ枷も施錠もしないというのは考えられない。少なくともルーティアでは他国から連れ帰ったΩの奴隷をこのように厚遇したりしない。 『ローレニア帝国……高い軍事力をもって領土を拡大し、ルーティア、ヴェルターニ、ウェルーニカ、アルヴァレズの四ヶ国を支配下に置く大国。ルーティアと同じく今もなお、身分制度が廃されることなく、Ωに対する差別が強い国』  教科書で学んだことを思い出しながら、手首につけられたバングルに視線を落とし、指でそっとなぞる。  色や形は少し違うが、養成所に居た頃に訓練で使っていたものとほぼ同等だ。鍵がなければ外すのは不可能だろう。 (……あいつらの話だと初めからルイの奴隷にされる事は決まっていた。ってことは、全部計画の内だったんだよな)  魔法が使えなかったあの区域にしても、そんな貴重な土地を国が管理していないはずがないから、知らずに魔法使いを送ったなんて事は絶対にありえない。  となると、やはり指令を出した兵か国に裏切られたと考えるのが妥当だろう。どんなに良い方へ解釈しようとしても、疑わしい事実がこういくつも重なっては、否定しようがない。  そう考えると、例えここから逃げ出せたとしても、逃げ場なんてどこにもないように思えた。国に帰れたところで、見つかればこちらに送り返されるか、口封じのために始末されるかだろう。 『くそ!』  再び込み上げた苛立たしい熱に、思い切り当たり散らしたい衝動に駆られるが、疲れた体は動いてくれず、仕方なく枕を抱えて歯軋りする。  そうして時間が経ち、怒りの矛先をどこに向けたらいいか分からないまま微睡みに誘われ、いつしか深い眠りに落ちていった。

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