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第9話

「それと、食事の主食は何がいい。パンか。それともイモか豆か。ルーティアは地域によって違うようだが、普段何を食べてる」  ルイに気取られないように一度頭の中の脱出計画はしまい、彼の質問に眉根を寄せる。 「……なぜ奴隷にそんなことを聞く」 「質問しているのはこっちだ。先に答えろ」 「……パン」 「そうか。聞かれたのに違う物が用意されたら嫌だろう」  ルイはそう言うと、喉をクツクツと鳴らして楽しそうに笑う。 「……性格悪いな、お前。くそ、真面目に答えるんじゃなかった」 「冗談だ。食べ慣れないものを与えて体調を崩されても面倒なんでな」  そう言って、ピンク色の髪を一束掬って()いたあと、彼が立ち上がったのでリアムも顔を上げる。 「食事は一日二回、しばらくはここへ運ばせる」 「しばらくは……?」 「ああ、昇級したら基地内のラウンジを使わせてやる。そのときは友人たちと好きに食べればいい」  そう言われてリアムは首を傾げる。それでは本当に養成所にいた頃と何も変わらない。違うのは住まう国と、訓練が仕事になったことくらいだ。  それともやはり過酷な労働をさせられるのだろうか。だが、それもあまり想像できない。  自分の都合のいいように考えてしまっているだけかもしれないが、彼の口振りからして、非人道的な扱いはされないような気がした。 「それと、ベッドに上がる時は靴を脱げ」 「…………」 「リアム」  そして、意外とお節介だ。  馬に乗せようとしたり、こうして注意したり、随所で世話を焼こうとするのはこいつの性分か、それとも気に入られてるのか。どちらだろうと考えてどちらもだろうという結論に至り、再び枕に顔を埋める。  「……後で脱ぐ」 「今すぐだ」 「……どうせ上がった後だし変わらないだろ」  悪態をつきつつ寝転んだまま靴を脱ぎ捨てれば、散らばってひっくり返ったそれを、ルイは綺麗に揃えて部屋を後にする。 「しばらくは仕事もないからゆっくり休め」  先程の木箱を持ち上げそう言うと、ルイはようやく出て行った。  リアムは閉まったドアを見上げ、今日何度目か、再び枕にボスンと顔を埋める。 『……変なやつ』

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