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第12話

「随分良さそうだな。痛いところはないか?」  この部屋に連れてこられたあの日以来顔を合わせていなかったから、少しばかり身構えて、皮肉を込めて返答する。 「おかげさまで。普段の百倍の時間をかけて回復中だ」 「そうか。自然の回復力で治るなら何よりだ」  だが、ルイはリアムの言葉をさらりと流して、見張りをしていた部下に皿を下げさせると、何故か衣服を脱ぎ始めた。その様子を見てリアムは訝しげに眉根を寄せる。 「……?」  外套(がいとう)を椅子の背に掛け、武器などの装備を外して不用心に机に置く。すると、彼は首元のタイを緩めながらベッドに近づいてくるではないか。  リアムはぎょっとして、とっさに扉とは反対側の方へ腕を突いて後ずさる。 「お前、な、なんだ……その格好……っ」  もちろん、予想していなかったわけではない。なんとなくそんな気はしていたし、ついさっきまでそんな最悪な展開を考えていた。だが、そうなるのは認めたくなくて声が震える。 「ふ……Ωの奴隷だ。言わなくても分かるだろう?」 「っ!!……冗談じゃない! お前に抱かれるくらいなら、こき使われた方がマシだ」 「安心しろ。あとでちゃんと働かせてやる」  そう言って隣に腰掛けると、腰に手を回してくる。服と呼ぶには縫製が雑すぎる、膝丈くらいの白い布。それを着たリアムの脇腹をルイは布越しに軽く撫で、反対の手を頬に添えようとした。  しかし、リアムはその手を払い彼の胸を押す。 「っ……やめろ! 俺はそういうことはしない」  腰に回された手を掴んで引き離そうとするが、本人に離す気がないようなので手の甲をぎゅうっと抓る。 「離せ」  だが、抓られても顔色一つ変えずに、その手を反対側の手で掴み返され動きを封じられてしまう。 「威勢がいいな。怖いのか?」 「っ……俺なんか抱いても面白くないだろ」 「もともとお前を番にするために連れてきたんだ。面白いかどうかは──」 「はあ!? 何ワケ分かんないこと言ってんだ!」  ルイがあまりにも非人道的なことを言い出すので、リアムは先ほど以上に声を荒らげる。  いくらΩの立場が弱く、時には(さげす)まれる事があったとしても。性交渉を強要させられたり、奴隷にされる事があったとしても。無理やり番にしようなどと言う者はそうそういない。少なくとも自国では殺人に次ぐ重罪だ。  Ωは(つが)ってしまったが最後、一生を一人に縛られることになる。許可なく番となった場合のそれは精神的な死に等しい。

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