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第35話

「ああ、ヴェルターニはバリアのレベルが高い。魔力に関しては見てみるしかないだろう。──奴隷以外全員下がれ」  奴隷を残して皆離れるが、ローレニアの魔術師たちはその最前列にてリアムの挙動を注視する。  囁き合う声からはリアムの魔力に興味を抱いているのが分かった。恐らくリアムに指揮を任せたのはリアムの力量を測るためだろう。  やけに魔術師がたくさんいると思ったが、リアムの魔法を見るのといざという時に押さえ込むために通常より多く連れていると考えるのが妥当だろうか。 (……出来すぎるのも良くないか?)  魔力の高さに畏怖して監視がきつくなったり、行動に制限がかかるのではないかと考えて躊躇うが、既に注目を浴びているなら今更加減した所で、熟練の魔術師には手を抜いた事が分かってしまうだろう。  そのことで、ささやかな反抗と受け取られるかもしれない。  それならば、全力で取り組み従順な姿勢を見せておくのが今は最善だ。 『ジュリアンとティノには俺の補助をお願いしたい。力はそんなに使わなくていいから、前後で軽く支えてくれ』 『うん、わかった』 『任せろ』  補助は一緒に訓練したことのある仲間に頼み、他の仲間たちには運びやすくなるよう軌道を作ってもらう。  他国の魔術師には岩が転がる先の台車の周りのバリアと万が一の時の対処を任せた。特に民家がある方には厳重にバリアを張ってもらう。 「じゃあ、いくぞ。せーの──」  岩全体にしっかり意識を集中させる。魔法を唱え空中にゆっくりと岩が浮かぶと背後で見ている魔術師たちが「おお……!」と控えめに歓声を上げた。  リアムは慎重に台車の方へ運ぶ。気は抜けないが、見た目ほど重さはなく、思っていたよりも随分楽だった。  もしかしたら中は岩滓(がんさい)のように少しだけ多孔質になってるのかもしれない。  とは言っても、やはりリアムにしか浮かせられないだろう。 「三、二、一……よっと」  ゆっくりと岩を台車の中央に乗せると、重量があるせいか、ずしんとした振動が響き渡る。魔法でロープを巻きつけて固定すれば、任務を終えて気の抜けた魔法使いたちがざわつく。 「本当に持ち上げた」「すごい」など、リアムの事を知らない者が皆一様に驚き噂しているようだ。その中で水色の髪をした嫌みな男だけは面白くなさそうにリアムを睨んでいた。 「ご苦労。一番隊と二番隊は引き続きここらの瓦礫撤去を頼む。三番隊から十番隊はあっちだ。レオ、頼む。リアムは残れ」  皆に指示を出し、レオが奴隷を連れて歩き出すと、ルイはこちらに向き直った。 「お前には壊れた民家と橋の修復を頼みたい」 「……元の形状が分からないものはすぐには直せない」 「橋は写真があるが、他は分からん」  形状が分からない物の修復は魔力の消費が激しい。この国の建物は自国と造りが違うし、知っていたとしても中にある家具や小物までは分からないから、難易度はかなり高いだろう。 「……あの、ブライス将軍」  瓦礫の撤去作業をしていたヴェルターニ人の一人──透き通るような白い肌に淡い紫色をした髪の魔術師が控えめに手を上げる。

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