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――…………
――……
「……遊星」
「…………維弦」
「一緒にかえろ」
「……うん。でも別に待ってなくていいって言ってるのに」
「いいじゃん。 一緒に帰りたいんだもーん」
「……いいけど」
「あ、教室寄ってく」
「ん? なんで?」
「向井が居るかも」
「…………」
「最近、向井この時間まで残ってることあるみたいだから。
もしかしたら今日も居るかも。一緒に帰れるかも」
「居なかったよ」
「そうなのか?」
「俺、さっきまで教室に居たけど、居なかったよ」
「……そうか。残念」
「…………向井のどこが好きなの? なにがいいの」
「……かわいい。あとおもしろい。あと癒される。なんかウサギっぽい」
「……ふーん。
………………変なの」
――…………
――……
――翌朝、暗い気持ちで教室のドアを開ける。
「はあ……」
学校へ行くのは、いつも憂欝だった。
最近は片桐との件で、益々憂欝になってしまった。
片桐には捨てられたくないけれど、だからこそ片桐と顔を合わせるのが辛い。
でも、俺に逃げる場所なんかない。
俺は学校へ行かなくてはならない。
「向井!」
「あ……」
「おはよ!」
「お、おはよう……」
教室に入ってすぐ、同じクラスの神崎遊星に声を掛けられる。
俺がクラスで唯一、ほんの少しだけ関わりのあるヤツだ。
だからって友達だなんて言うのはおこがましいけど……。
「借りてた漫画、おもしろかった。 返す。 ありがとう」
「あ、ああ」
神崎から漫画を数冊手渡される。
俺が貸した漫画だった。
丁寧に袋に入れてあって、大切にしててくれたんだなと分かった。
「『魔法少女探偵まじかる★ぴんく』、最高だった。
ぴんくが犯人に残酷なおしおきをするのがたまらない……」
「わ、分かる……。
絵柄は少女漫画だけど、グロの描写が毎回すごくて……」
「実写映画見たかった…… 前にやってたやつ」
「DVD持ってるからそれも貸そうか?」
「いいのか!?」
「明日持ってくるよ」
「ありがとう!」
「うん」
神崎とは、少女漫画を通して話すようになった。
前に俺が本屋で少女漫画雑誌を立ち読みしてたら、声をかけられたんだ。
俺は姉が居る影響で少女漫画が好きなんだけど、神崎もその手の漫画に興味があったらしい。
興味はあったけど、男だから少女漫画には手を出し難かったんだとか。
それで俺が持ってる漫画いろいろ貸してやってたりして……。
……なんていうか、こういうのって、なんかいいよな。
友達同士みたいでさ。
でも、俺みたいな根暗が神崎の友達を名乗るのは、やっぱりどう考えても図々しい。
身の程を弁えなくちゃ……。
「遊星ッ」
「……ん?」
突然やってきた片桐が神崎に抱きついて、べたべたし出す。
腕を取って、恋人みたいに指をするりと絡ませて……
「今日放課後タピオカ飲みに行こ~」
「えー……また? 昨日も行ったのに」
「奢るからさー」
「んー……」
片桐と神崎は、距離が近かった。
いつも片桐がべたべたして、神崎はそれを拒まない。
どうやら二人は幼馴染みらしく、昔から仲が良いのだとか。
正直俺は、それが気に入らなかった。
一人前に、嫉妬してるんだ。
神崎と居る時の片桐が、凄く楽しそうだから……。
片桐は、俺と居たってそんな風に幸せそうに笑わない。
俺が片桐を楽しい気持ちにしてやることなんか、できない。
……神崎が、羨ましい。
「向井も行く?」
「……えっ?」
――やば……
話聞いてなかった……。
「タピオカ」
「タピ……?」
「飲んだことある? 一緒に行かない?」
「え……いや俺は…………」
片桐のほうをチラリと見れば彼は、凄く不機嫌そうな顔をしていた。
……怒らせてしまった。
多分だけど、片桐は…………
「俺は、今日はダメだから…… ごめん……」
「んー、残念……向井と遊んでみたい……」
「はは……ご、ごめんな……」
俺は二人から顔を逸らし、逃げるように自分の席へ向かった。
そして何かを誤魔化すように、さっさと椅子に座る。
――たぶんだけど、片桐は……
片桐は、神崎のことが、好きなんだ…………
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