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――次の日。 学校へ来たはいいものの、教室の扉を開ける勇気がなかった。 この教室には片桐も居る。 片桐はいつも、朝早く学校に来ている。 今日も当然俺より早く来ていて、既にこの教室に居るんだろう。 ――片桐に会うのが、こわい。 正直な気持ちは、やっぱりそれだった。 片桐に嫌われているという事実が、俺にとってはあまりにも重い。 俺は片桐が好きなのに、どうして片桐は俺の事をそんなに嫌うの? どうして俺に嫌がらせばかりするの? 俺が何かしたのかよ……。 一日くらい、ザボってもいいや。帰ろう……。 ――とは言え、サボった事がバレるのもまずいので、家に帰る事も出来なかった。 家には母さんが居るから、帰ったら間違いなく理由を聞かれる。 具合が悪くて早退しただとか嘘をつくのも嫌だった。 俺の母さんはやや過保護なので、早退しただなんて言ったら面倒くさい事になる。 ――と、いうわけで俺は公園でスマホを弄ったり本を読んだりして時間を潰す事にした。 うちの両親は、父母揃ってちょっと過保護だった。 俺が末っ子だというせいもあるのだろう。 昔から俺が何かする時は必ず両親が側に居てくれていて…… 一人で何かするという事がほとんどなかった。 そのせいで、俺は一人では何もできない人間になってしまった。 ようするに俺は極度のマザコンでファザコンなんだ。 だから、家の外ではなにもかもが上手く行かなかった。 両親にべったりだった俺は、両親の側から離れた途端に何も出来なくなってしまう。 勉強も、運動も、一人じゃなんにも出来ないよ。 友達を作るのだってそうだ。 人付き合いが、一番苦手だった。 昔から友達が上手く作れなくて、学校では一人ぼっち。 虐めと言うほどのものではないのかもしれないけど、からかわれたりする事も多かった。 今の学校に入学しても、それはおんなじで…… 俺は、いつも一人ぼっちだった。 そんな中、片桐が俺に告白してくれた。 俺を好きって言ってくれた。 俺には、家の外で俺の側に居てくれる人が必要だった。 片桐が、そんな存在になってくれたらと夢を見た。 ……片桐を、好きになってしまった。 でも、片桐は俺の事が大嫌い……。 俺は、それが何よりも辛かった。 片桐に告白された時、俺なんかを好きになってくれる人が居たんだと思って、浮かれた。 やっぱりそんなわけなかったのに、浮かれたりして、馬鹿みたいだ。 ――もう、どうしたらいいのか分からない……。 ――学校、やめたい……。 でも辞めたいなんて言ったら、母さんたちが心配するし…… 辞めれないよな……。 「……ん?」 ポケットに入れていたスマホが震える。 RAINで、片桐からメッセージが来ていた。 『なんで学校来ないのー?』 『休んじゃやだよー』 『友くんが居ないと寂しいよー』 変なキャラクターのスタンプと一緒に、そんなメッセージが表示されていた。 昨日俺の事をレイプしておきながら、こんな呑気なメッセージ送って来るなんてどういう神経してるんだコイツ。 冷静に考えると、片桐には、好きになれる要素が全く見当たらなかった。 女子には人気があるみたいだけど、それは外面がいいからだ。 なんで俺は、よりによって片桐なんかを好きになっちゃったんだろう。 でも、やっぱり嫌いになれないから、 『ごめん、体調が悪くて』 『でも、良くなったからもう少ししたら行きます』 そんな風に、メッセージを返した。 ――昼休みに学校へ行けば、片桐はやたら上機嫌な様子で俺を出迎えた。 「友きゅーん! 友きゅんが居なくって寂しかったよ~!」 「……ご、ごめん」 この態度が嘘でも、こんな風に構われるのは、嬉しかった。 でも、片桐を見て居ると、胸の奥がぎゅうって痛くなる。 「今日、放課後、またイイコトしようね」 「……っ」 「今日はちょっと特別なものを用意してあるんだ」 片桐は俺の耳元に口を寄せ、小声でそんな事を言った。

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