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第1話

 安住(あずみ)の目の前には黒く長い髪をした背の高い男が立っていた。有性生殖で陸上の生き物の片方にあるという下腹部の棒状の器官は隆々と血管を浮き上がらせ、安住の前にそそり立っていた。忙しない衣擦れの音と男の荒い息遣いが静かな空間に響き渡る。白い手袋に覆われた手が血管を刻む剛直の上を往復する。 「よく見ておけ、青明(はるあきら)」  苦しげに安住の目の前の男は言った。呼ばれたのは安住のすぐ脇に座る青年で、まだ20代前半といった年の頃だった。床に着くほど長い金髪が美しく、冷淡な印象を受ける顔立ちをしていたが、その返事は力強く、活動的な響きを持っている。  安住の目の前の男は露出した屹立を今までよりもさらに速い間隔で擦り上げた。安住はその先端にある笠のような部分を凝視した。小さな穴が収縮する。次の瞬間、目の前が爆ぜた。びゅく、っと白い粘液が安住の顔にかかる。その後も何度かに分け断続的に少し温度のある粘性を帯びた液体が噴き出した。目の前で立っていた男は座っている安住の目線に屈むと宙に円を描き、上から両断するような動作をした。安住の顔面に浴びせられた白濁色の液体はきらきらと輝き、消えていく。 「これがこの祭祀社の護手淫(ごしゅいん)だ。しっかり身に付けろ」  衣服を正しながら目の前の男は安住の隣の青年を見下ろしながら言った。 「はい、生命尊(みこと)様、必ずや、必ずや体得してみせます」  男は満足そうに口角を上げた。 「安住を貸そう」 「ありがとうございます」  安住の主人・生命尊(みこと)は緩やかな足音を立て社務所内にある道場から出ていった。残された弟子・青明(はるあきら)は深々と退室まで背を見送り頭を下げている。 「安住」  真っ直ぐな金髪がさらさらと青年の肩から滑り落ちる。祭祀社入り口に大きく聳え立つ島木門に近い赤の瞳に射される。 「これからよろしく頼む」 「うん」  青明の荒れた手が伸ばされ、安住はそれをふいと見下ろす。 「握手だ。手を繋ぐ挨拶。お前も腕を出せ」  言われた通りに腕を出す。青明の手に掴まれたが捕食や拘束といった類の力加減ではなかった。 「すぐに修行に入りたい。いいか?」 「うん」  青明はゆっくりと下半身を覆う深い紫色の衣類を緩めていく。 「お前なら問題ないが、他の人の前となると…どうもな」  青明はぼそぼそと零した。安住は膝を折ってまたその場に腰を下ろす。 「出来るだけすぐ、生命尊(みこと)様にお返し出来るよう努めるから、安心してほしい」  困ったように彼は口元を緩めたが安住はただそれをじっと見上げるだけだった。

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