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第1話

 母親が、または姉ちゃんが、勝手に事務所に履歴書送っちゃって。  なんてのは男のアイドルが芸能界に入った理由としてよく言ってることだけど、俺の場合もまあそれに近い。  引越しを機に転入する事になった高校は、母ちゃんが勝手に決めた男子校だ。  そこは隠れたイケメンの宝庫らしい。  と、女性週刊誌から仕入れた情報なんだか奥様ネットワークだかなんだかは知らないけど、母ちゃんは思春期真っ盛りのミーハー女みたいなハイテンションで喜々として語ってくれた。  何喜んでんだババァ。  お前が通う訳じゃねぇだろ。  とは思ったけど、母ちゃんは女手一つで俺を育ててくれてる苦労人なので、俺は極力母ちゃんに逆らわないようにしてる。  それに、俺はついこの間まで女子の比率がやたら高い高校に通ってたから、逆に野郎だけってなんか面白そうだなと。  半ば女子校みたいな学校(俺がいたクラスは生徒42人のうち男は11人しかいなかった)に1年とちょっと通ってて微妙に女恐怖症になりかけたからな、俺。  ほとんど女しかいないってんで、女子共は俺達男の目なんか気にしないどころか、ああいたの?みたいな感じだった。  例えばちょっと気温が高かった日、数人の女子が俺がいるのに暑ィ暑ィってスカートばさばささせて「見てんじゃねぇよ、マジキモイ」とかな。  普通見るだろうよ、男なら。  ムカついたから「あなた方だから見た訳ではありません。スカートの中は男にとって常にミステリーなのです。そんなに暑いなら代わりにスカートをめくって風を入れて差し上げますよ」と言って追い掛け回してやった。  いや勿論この通りに言った訳じゃない。  スラングを直訳したらこんな感じになるって話。  そのあと俺は女子共から『変質者』というステキなあだ名を頂戴した。  けど、俺と違って女みたいなツラした奴が相手となると女子共もソイツを仲間と認識してるのか、スカートめくられようが乳だのケツだのを触られようが「やだぁ~も~」で終了という。  おかしいだろ、それ。  ソイツは顔は女みたいだけどれっきとした男だぞ。  俺と同じモンついてんだぞ。  極々普通の、あるいは冴えない地味男が女だらけのところに紛れたら急に女にモテ出した、なんてのは漫画やゲームだけの話だ。  所詮顔なんだよ、顔。  現実なんてそんなもん。  モテるのは結局女ウケのいい顔してる奴だ。  顔の良さは七難隠すってな。  ……そうだ。  野郎しかいねぇ学校なら、女ウケいい顔した奴が得するとかってこともない!はずだ。  まあ、俺がこれから通う学校はイケメンの宝庫らしいから、そのイケメン達も学校の外では女に特別扱いされたりもしてるだろうけど、校内でツラの良し悪しは関係ねぇだろ。  この際だからニュー俺デビューしてみるか。

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