29 / 41

第20話

 次の日の昼休み。 「おい、テメェ等。話がある」  教室でカッチとムッチと昼メシ食ってた時、グラが目を据わらせてやって来た。  昨日ミノリの写真撮ってた奴等の間で「ミズキちゃんの姉ちゃんってグラに似てねぇか?つかコレ、グラじゃね?」って話になったみたいで、その写真があっという間に学校中に広まって俺のクラスでも話題になってたから、いつか来るんじゃねぇかとは思ってたけど……マジで来たか……。  昨日俺達は惣田とミノリと一緒に帰ってるし、カッチなんてミノリと腕組んでたからな。  きっとお面達以外にもそれを撮ってた奴等がいて、巡り巡ってグラの目に入ったんだ。  お面達は「個人で楽しむ!」っつってたから撮った写真を他人に回したりはしてないはずだ。  ……「個人で」ってのがなんか別の意味で引っ掛かるけど。  考えてみりゃ、あん時のミノリって化粧のせいかいつもよりグラに似てたかもしんねぇ。  ミノリの顔を女っぽくしたらグラになるなとは思ってたけど、ホントにそうだったみたいだ……。  でもグラに話振れるようなツワモノがいるとは思えねぇし………………あ、前にクリケンと体育館裏で一服してたヤンキーの皆さんがいたわ。  クリケンは写真見てもすぐミノリだってわかりそうだからスルーするだろうけど、あの皆さんは、 「これアキラ君?」 「超綺麗っすね!アキラさん!」  なんつって、躊躇いなくグラに写真見せそうだ。 「立ち話もなんだし座んなさいよ」  ムッチが、座ったまま近くの椅子を引き寄せてグラに勧めると、グラは仏頂面だったけど素直に腰を下ろした。  てっきり「いらねぇよ」って椅子蹴り倒すかと思ったよ……。  でも明らかに怒ってるし、やっぱ大勢の奴に女装してたのが自分だって思われてんのが気に食わねぇんだろうな。  こりゃマジでミノリの命が危ない。  それでミノリが学年主任に「倉原明」って名乗ったことがグラにバレたら……ミノリ、確実に殺される……。 「なんでうちの馬鹿がここであんな格好してたんだよ。写真じゃ俺だと思われてるみてぇだし、昨日も俺に間違われて絡まれたりしてたんじゃねぇか?」  ……あれ?  ミノリの心配してる?  グラ、早とちりしてごめん。  グラってやっぱ弟思いのいい兄貴だったんだな……。 「それで何人蹴り倒したんだ?アイツは。まだ俺んとこに御礼参りに来た奴はいねぇけど、アイツの尻拭いするなんざ御免なんだよ。アイツにケジメつけさせっからアイツが蹴り倒した奴教えろ」  ……御礼参り……? 「落ち着けよグラ。ミノリは怪我人なんて出してないから。まあ大騒ぎにはなってたっぽいけどね。ミノリが美少女過ぎて」  目ェ据わらせっぱなしのグラに笑いながら答えたのはムッチ。  で、 「ミズキちゃんがファンの連中に『どうしても女装して見せてほしい』って頼まれたらしくてさ。ミノリはミズキちゃん1人に女装させてなんかあったら大変だって、ボディーガード兼ねて一緒に女装したらしいよ。でも実際はミズキちゃんがミノリのこと守ってたみたいだけど。な?ビー君」 「え!?」  いきなり話振んなよカッチッ。  えーっと……っ。 「そ、そうそうっ。惣田が機転利かせてミノリを自分の姉ちゃんだって言ってくれたお陰で、昨日はミノリのことをお前だと思う奴もいなかったんだ。だからミノリはお前に間違われて絡まれたりもしてないっ」  据わったグラの目を勇気振りしぼってガン見して必死に説明したら、 「そうか。なら惣田に礼言わねぇとな」  あっさり納得されて拍子抜けした。  つか……、 「全校生徒に女装してたのが自分だと思われてることについてはどのようにお考えですか……?」  気にすんのは御礼参りとかより普通そこだろ?  やっぱグラってズレてるよ。  コイツこそミラクルな天然……。 「あ?」  グラに急にガン垂れられて俺は慌てて目を逸らした。  怖ェんだよお前!天然の癖に! 「いやっ、答えたくねぇなら別にいいんだけど……っ」 「女装してたのはうちの馬鹿だ。俺じゃねぇ。もし俺本人だったとしても、女の格好してようがなんだろうが俺は俺だ。周りが何言おうが知ったこっちゃねぇな」  ……ですよねー。  全く以ってキミらしい答えだよ、倉原君……。 「え?何?お前女装出来んの?」  唐突にムッチが驚きの声を上げた。  なんでそういう話になるんだ?ムッチ。 「どういう意味だそりゃあ」  グラも不思議に思ったのか、つか喧嘩売られてるとでも思ったのか、ドスのきいた声でムッチに聞き返した。  違うな、ドスきいてんのはいつものことだ。  ここ来た時からもずっとだし、やっぱ不思議に思っただけなのか?  わかりづれぇよ、グラ……。 「いや、言葉通り。周り気にしねぇっつーなら、極端な話『女装して全校生徒の前に立て』って言われても嫌がんないで女装出来んのかなと思ってさ」  ムッチが改めてそう言うと、 「理由があればな」 「マジで!?」  さらっと答えたグラに思わず出してた俺の声は、何故かめっちゃハモってた。  どうやら近くで聞き耳立ててた奴等がグラの言葉につい反応しちゃったらしい。  ……みんな女装したグラが見たいんだね。  俺もさ、仲間達……。  つかだってさ、どう見ても男にしか見えねぇミノリがあんな美少女になったんだぞ?  だったら元々女顔のグラが女装したらもっとスゲェ美少女になる訳じゃん。  そもそもコイツ、1年前まではガチ美少女だったんだし。男だけど。  そりゃあ見てみたいよ。  なあ?仲間達。 「どうよグラ、この期待の眼差し」  辺りを眺めてカッチが笑った。 「俺が理由作るから女装してみれば?ここにいるみんなのためにもさ」  片手で頬杖ついてグラに微笑み掛けるカッチの眼鏡が、一瞬無駄に光ったような気がした。  出るのか!?ブラッドフォグ!  どんな技か知んねぇけど!  つか『理由作る』って?  何企んでんだ、白い悪魔……。

ともだちにシェアしよう!