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第21話
聞きようによっちゃ嫌がらせみたいなカッチの提案に、グラは口元だけで不敵に笑って「やってやるよ」と即答した。
売られた喧嘩は必ず買うグラらしい反応だってムッチは笑ってたけど……まさかカッチとムッチはそれ知っててグラ煽ったんじゃねぇだろうな。
いや、俺とほかのクラスメイト達にしてみりゃ結果オーライなんだけどさ。
こうなったからには協力するぞってノリノリで言い出したクラスメイト達に、カッチは「それじゃあ《理由》作りに協力しろ」って、あるひとつの指示をみんなに出した。
で、この間紫頭のお面被ってた早口の天野、ピンク頭のお面被ってた麦島、水色頭のお面被ってた緑川、唯一お面被ってなかった番場にもカッチは応援を頼んだ。
それから、ミノリに完璧な化粧をした惣田の姉ちゃん……を学校に呼ぶのは流石に無理だったから、惣田が姉ちゃんに化粧を教わってくることになった。
そんなこんなであれから1週間経った今日の放課後、この間の第二生物室より遥かにたくさんの生徒達が体育館に集結した。
カッチとグラのちょっとしたやり取りがこんな一大イベントみたいになっちゃったのは、カッチがクラスメイト達に出した指示ってのが「『1週間後の放課後、体育館でグラの女装が見られるらしい』って他のクラスの奴等に言って回れ」だったからだ。
カッチ曰く、
「グラのファンって校内に大勢いるだろ?そんな噂聞けば確実に食い付くと思うんだ。あのヤンキーが女装すんのか?って面白半分で興味持つ奴もいるだろうしね。単純な話だけど、人が集まるならそれを《理由》に出来る。グラは《全校生徒の大半が集まるイベント》のために女装するって訳だ」
……なるほどね。
けど、マジで全校生徒が集まってそうなとこで女装させるなんて……悪魔だ。カッチは絶対悪魔だ。
そんで俺は悪魔に魂売った男だ。
しかも悪魔に絶賛片想い中ときた。
ぶっちゃけ魂売ったんじゃなくて奪われちゃったんだよ。
色白細マッチョでメガネの小悪魔ちゃんにな!
……小悪魔はねぇな。
小悪魔っつーなら……、
「倉原先輩が女装したら綺麗でしょうね。僕、倉原先輩の顔だけは好きなんですよ」
ってニコニコ笑って言ってた惣田だ。
惣田がグラとタッグ組んだら最強かもしんねぇって思ってたけど、惣田とカッチが組んだほうが…………怖ェから考えんのよそう……。
とりあえず、2人で軽くこの学校支配出来る。絶対。
つか惣田はグラのことあんま好きじゃねぇみたいだし、カッチはグラと付き合ってるクリケンのことが未だに好きみたいだし、これってある意味グラに対するマジな嫌がらせなんじゃ……。
「どうしたマサヤン。面白い顔になってんぞ」
ムッチに顔覗き込まれて我に返った。
「いや……流石にこんだけ人集まっちゃうとグラが可哀相かなって……」
体育館のステージ側の角に立ってた俺は、ざわつく生徒達を眺め回しながら本心を濁した言葉をムッチに返した。
「気にしない気にしない。アイツがやるって言ったんだから。大体アイツ、やるっつったらとことんやんねぇと気が済まねぇ質だし、ここで『なかったことにしようぜ』っつーほうが可哀相……つか、んなこと言ったらアイツ多分ブチギレるよ?」
あっさり恐ろしいことを言ってくるムッチに俺は視線を移した。
「ブチギレる……?」
「ああ、うん。多分ね。でもまあ、そうなったらクリケンが取り押さえてくれんだろうけど」
そう言って、急にムッチは辺りをキョロキョロ見回し始めた。
「どうしたの?」
聞いてみたら、
「クリケン来てんのかなぁと思って」
キョロキョロしたままムッチに言われて、釣られて俺もクリケンを探した。
クリケンはムッチよりグラの性格知ってんだろうし、今回のことにも口出したりはしなかったんじゃねぇかなとは思うけど、グラと付き合ってるクリケン的にグラの女装ってどうなんだろ。
やっぱ見てみたいんだろうか。
でもクリケンは男のグラが好きな訳だから、女の格好したグラなんて見たくねぇかもしんねぇよな。
付き合ってる奴が見世物になんのも嫌だろうし。
そもそもクリケンって嫉妬深いみたいだし、みんなが見てる前で女装したグラ連れ去っちゃったりしてな。
そうなったらあの2人、全校生徒公認カップル……っつーよりまた《姫とSP》って言われんだろうな。
で、間違いなくグラがブチギレる……。
つかクリケンどこにいんだ?
来てねぇのかな…………あ、平子先輩だ。
やっぱ来てたか、あの人……。
「何2人してキョロキョロしてんだよ」
近くからいきなり聞き慣れた声がして、振り返ったら悪魔と小悪魔が並んで立ってた。
「おお、カッチ。準備出来たのか?」
俺が口開くより先にムッチがそう言うと、
「完璧。いやぁ、ミズキちゃんがいい仕事してくれてねぇ」
カッチは小さく笑って隣に立つ惣田を見下ろした。
その視線をちらっと見上げて、惣田が照れ臭そうに微笑んだ。
「面白いですね、化粧って。真面目にそっちの勉強してみたくなりました」
「いいじゃん、メイクアップアーティスト。ミズキちゃん向いてると思うよ」
「今そんなこと言われると調子に乗っちゃいそうなんですけど」
こんなふうに楽しそうに喋ってんの見ると普通に仲いい先輩と後輩って感じで、学校掌握出来そうな悪魔と小悪魔には全然見えねぇんだけどな……。
それはまあ置いといて。
「グラがどうなってんのかスゲェ楽しみ」
俺とムッチ、それからほかのクラスメイト達も、企画者のカッチからグラがどんな格好するのかとか具体的なことはなんも聞かされてない。
聞いても「当日までのお楽しみ」っつって教えてもらえなかったから余計楽しみなんだ。
「あ、クリケン」
突然カッチが遠くを見詰めて呟いた。
そうやってすぐ見つけちゃうところに愛みたいなものを感じちゃいますよね……!
いや!俺だってね!カッチがどこにいてもすぐ見つけられっから!多分!
「……クリケン」
ふと、惣田が確かめるように呟いた。
クリケンって校内じゃグラとセットで有名人なんだと思ってたけど、1年生は知らねぇのかな。
「栗村健司でクリケン。グラの幼馴染らしいよ」
惣田に教えてやると、
「へぇ……栗村先輩ってケンジって名前だったんですね」
クリケンのことは知ってたけど名前までは知らなかったってやつか。
まあ、学年違えば名前なんて知らなくても当然か。
俺もついこの間まで惣田の名前知らなかったし。
「え?クリケンどこ?」
ムッチはまだクリケンを見つけられてなかったらしい。
そういや目ェ悪いっつってたもんな。
「お前のちょうど正面の、あのデカイの」
カッチがそう言ってクリケンがいる方向を指差すと、
「おお、サンキュー。クリケーン!こっちこっち!」
ムッチが片手を挙げて大きく手招きしてクリケンを呼んだ。
クリケンってやっぱ目立つな。
デカイからってのもあるけど、なんかほかの奴等と空気違うっつーか、ただこっちに向かって歩いてきてるだけなのにそれが絵になってるっつーか。
……チキショー、相変わらずカッケェなぁクリケン。
クリケン見るとドキドキしちゃうんだよ、俺。
恋とかじゃなくて、ちっちゃい頃に憧れてたヒーローに会っちゃった気分ってのかな。そんな感じで。
俺ん中でクリケンはウルトラマンと同類なんだ。
だから俺からしてみると、クリケンに片想いしてるカッチはM78星雲の銀色の巨人をヤっちまいてーと思ってるのと同じで、そう考えるとかなり複雑な気持ちになる。
で、M78星雲の銀色の巨人と付き合ってるグラはマジでスゲェと思う。
グラは「させるかクソが」なんて言ってたからまだアレでソレなことはしてねぇんだろうけど、するってなったら…………まずどっちが上になるかで殴り合い始めそうで怖ェな、あの2人……。
そんなことを思った瞬間、『ウルトラマン怪獣大決戦』って言葉が俺の脳裏をよぎってった。
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