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甘くない(4)

「まあ、とにかく。グラはムッチのこと嫌いな訳じゃねぇんだよね?」  スゲェあっさりマサヤンがグラに尋ねた。  多分グラの表情がはっきり見えてたら、流石のマサヤンもそんな簡単には聞いてなかったんじゃないかと思う。  グラはやっぱり僕を見たまま口を開いた。 「嫌いだったら今ここにいねぇよ」 「じゃあその汚物見るような目やめろっ。めちゃくちゃ傷つくんですけどっ」 「お前汚物だったのか。初めて知ったわ」 「クッソムカツクッ」  そばにあった腕を軽くどついてやったら、グラは目を伏せて小さく苦笑した。  うわーもーっ!馬鹿にしやがってーっ! 「やっぱ仲いいな、ムッチとグラ」  マサヤンはマサヤンで、何故かえらく感動してるような口振りで呟いた。  わかんな過ぎるぜ尾藤ワールド……。 「マサヤン……寧ろ僕、グラにイジメられてんだけど」 「え?そう?ぶっちゃけ…………クリケンよりムッチのほうがグラと付き合ってそうな雰囲気あるっつーか……」  めっちゃ尻すぼみだなマサヤン。  最後のほうあんまよく聞こえなかったけど、僕とグラが付き合ってそうって言った? 「聞こえねぇぞ尾藤。もっとはっきり言えや」  腕組みして踏ん反り返った格好で、グラが無駄にドスのきいた声を発した。  マサヤンはそれに完全にビビって萎縮しちゃった。  まあ、あの長い前髪の隙間からガン垂れられんのって怖いよね。  でもねマサヤン、コイツは顔面全開でガン垂れてきた時のほうが遥かに怖いんだよ……。  もうガチで造りもん過ぎてヒトの顔に見えないから。  ソレが言葉発して動くんだぜ?  もはや不気味の谷だよ……。  正直言って、そんな奴に欲情する奴等の気が知れない。  グラのことラブドール的な感覚で見てんのかな……。  一応グラと付き合ってることになってるっぽいクリケンが未だにコイツに何もしねぇのも、その気になってもコイツの見た目が人形過ぎて我に返っちゃうからなんじゃねぇかなとか思ったりもする。  だってあのクリケンが何もしねぇなんてありえねぇもん。  グラは小さい時から大人に性的な目で見られ過ぎたせいなのか、性的なことに対して若干潔癖気味だ。  そういうとこも人形臭さに拍車かけてる。  なんつーかこう、人間らしい生々しさがないんだよ。  けどクリケンは僕より女食ってるし。つか、僕とはモテ方のレベルが違うっつーか……もうちぎっては投げ、ちぎっては投げだろ、アイツの場合……。  それにグラとは別の意味で男にもモテる奴だから、食った中には男もいるかもしんねぇし。  クリケンに抱かれたい男、山ほどいそうだもんなぁ……。  でもその気持ちはちょっとわかる。  グラ抱きてぇってのはわかんないけど、クリケンに抱かれてぇってのはわかっちゃうのが悔しい……。    そんな訳だから、何をどうしたら僕とグラが付き合ってそうに見えるのかさっぱりなんだよ、マサヤン。 「僕、こんなヤンキー好みじゃないよ。クリケンには悪いけど……アイツ趣味悪ィな」 「それには同意する」  溜め息混じりに言われて、僕は思わずグラをガン見してしまった。 「同意しちゃうのかよっ」 「ああ。アイツは俺に告られて、面倒だから俺に合わせてるだけだと思」 「んな訳ねぇだろっ」  グラの言葉を遮って、僕の声とマサヤンの声が見事にハモった。  ビビって反射的にマサヤンを見たら、マサヤンも目を丸くして僕を見てきた。  そのマサヤンの目がちらっとグラを見たあと、「お前が言ってやれ」って言いたげにまた僕を見た。  わかったよ、僕が言うよ。 「クリケン、どう見てもお前のこと大好きだから。お前以外いらねぇってレベルの熱さだから」 「そうなんだよな。つか、今更だけど告るんじゃなかったってちょっと後悔してる」 「マジで今更だなオイ。両想いだったんだから喜んどけよ」 「両想いねぇ……。正直俺は、アイツ以外いらねぇなんて思えるほどじゃなかったけどな」  目を伏せて、独り言みたいにグラが言う。 「あー、やぶ蛇ってやつか」 「まあな。元からアイツ俺に対して過保護なとこあったけど、それが余計ヒドくなったしよ。正直ウゼェ」 「お前……カレシのことそんなふうに言わなくても……」 「カレシって言うな」 「え?男だから『カレシ』だろ?カノジョなの?」 「……いっそもう、さっさと『カノジョ』にしちまったほうが楽なのか?」  再び目を伏せたグラのその呟きは完全に独り言だった。  いや、いくら相手が極上!!めちゃモテ番長でも、コイツも男だからそういう考えに至っても……至ってもだな……。 「お前、楽ってなんだよ楽って……。せっかく友達としてじゃなく付き合うことになったんだからさ、そういうことはもっと恋人同士らしく……。出来ないなら別れて友達に戻りなさいよ」 「やなこった」 「ワガママな子だね全くっ」  そもそも、クリケンにマウント取られたら逃げられる訳ねぇなんて文句垂れてた奴がクリケン抱けるんですか?抱けると思ってるんですか?  どう考えても無理だろ!  クリケンがカモン!ってなんなきゃ絶対無理だから!  ……でもアイツ、グラにそうしたいって言われたら折れるかもしんねぇな。  なんたってグラのこと大好き過ぎるから。  つか、さっきっからずいぶんマサヤン静かだな。  と思ってマサヤンを見たら、マサヤンは僕のほうを……いや、グラのほうなのか?とにかくこっち見て固まってた。  グラとクリケンのよくわかんねぇ付き合い方に頭混乱してんのかな……。 「マサヤン?」  声を掛けてみたら、マサヤンが僕と目を合わせて口を開いた。 「『やぶ蛇』とは……?」  まだそこにいたー!?  ずっと『やぶ蛇』が気になってたー!?  もうマジで最高過ぎるぜ尾藤ワールド!  そのあと僕は『やぶ蛇』の意味から説明を始めて、グラとクリケンの謎な関係についても説明した。  改めて、しかも丁寧に説明したせいか、グラにめっちゃ汚物見るような目されたけどな!

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