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甘くない(3)
いや、でも確かにクリケンはヤベェ。
だってアイツ、頭身が異次元だもん。
それ言ったら隣のヤンキーもそうなんだけどさ。
グラとクリケンが2人でいるとこに誰も割って入れねぇのは、奴等がかもし出す『こっち来んな』オーラもだけど、その見た目のせいもあると思う。
180cmと190cmの、何気にガタイがいい顔小せぇ足長族の間に入れる奴なんかそうそういねぇって。
僕が奴等の間に立ったらガチで捕らわれた宇宙人みたいになるからな。
しかも両方すこぶる顔がいいと来た。
アイツ等の間に入ってもなんとかなりそうな奴って、身近で言ったらカッチくらいじゃねぇかな……。
やたら白いメガネマンで玉子に縦線横線描いただけみたいなツラだけど、アイツも180ある隠れマッチョだし、何より頭がいい。
マサヤンもなぁ……。
そこそこ身長あるし、少女漫画の実写映画に出てそうな若手イケメン俳優みたいな顔してるんだけど……。
ぶっちゃけ顔だけならカッチよりいい。
でも……ちょっと細過ぎじゃねぇかな……。
それにマサヤン、グラには慣れてきたっぽいけどクリケンにはまだめちゃくちゃビビってるし……。
グラとクリケンに張り合える奴ってなると、やっぱ最低でもカッチくらいの体格で肝が据わってる奴じゃねぇとダメな気がする。
「武藤に比べたら尾藤はまだいいほうだろ」
おっと、隣のヤンキーがしれっと僕へのdisりブッ込んできやがったぞ。
「はいはい、君等に比べたら僕はブサイクの短足ですね。滅せよイケメンどもっ」
「ムッチがそれ言うかよ。髭なかったら美少年の癖に」
ふて腐れたようにマサヤンが言った。
いやいや、美少年って……。
「髭あってもツラだけはいいだろ、このチビ」
「だけ!?いや、顔褒めてくれてありがとね。でも、だけ!?」
まあね!お前みたいに背もないし足も長くないけどさ!わかってるけどさ!
つかチビじゃねぇし!平均だし!
なんて思ってたら、いきなり顎掴んできたグラがめっちゃ顔寄せてきた。
「だけだろ?違うか?あ?」
「怖い怖い怖いっ」
目の前で凄むな……っ。
超怖ェッ。
思わず押しのけたらあっさり引いてくれて安心した。
イカツイ顔の奴に凄まれてもなんてことねぇんだけど、コイツみたいな造りもんみたいな顔に凄まれると異常に怖い。
だってなんかもうヒトっぽくねぇっつーか……薄暗いとこで見る人形とかお面とかの不気味さに近いっつーか……。
「グラ……今度はムッチにチューするのかと思ったわ……」
マサヤンが変な驚き方してたー!
そういやグラにチューされてたっけねマサヤン……。
「ざけんな。コイツとは死んでも御免だ」
グラがマサヤンに向き直るなり吐き捨てた。
僕そんなに嫌われてたのー……?
いや、別にグラとチューしたい訳じゃねぇんだけどさ。そんなにー……?
「もしかして……なんとも思ってねぇ奴とは冗談で出来るけどってやつ?」
思案顔で何言ってんだマサヤン……。
めちゃくちゃ考えたすえに導き出した答えがそれだって言うのか……?
摩訶不思議過ぎるぜ尾藤ワールド……。
「マサヤン……」
僕はマサヤンに向かって首を横に振って見せた。
あんま変なこと言うと隣のヤンキーがイライラしちゃうからね……。
「いや、だってさ、相手がクリケンでも嫌なんだろ?あ……チューくらいはしてんのか……?」
「マサヤーンッ」
なんでこの子は普段ぼーっとしてる癖に突然爆弾投下してくんのかな!
もうマジで尾藤ワールド謎過ぎるんだけど!
うっわ……グラ無表情になっちゃってるよ……。
コイツあからさまにイライラしてる時のほうが怒ってないんだよ!どうすんだよマサヤン!
ああ……マサヤンは喧嘩なんかしたことなさそうだから、グラがガチギレしたら僕が殴ってでもグラ止めないといけないのか……。
やだー!面倒くさーい!
「正直」
不意に、無表情のまま腕組みして踏ん反り返ったグラが口を開いた。
「自分の中に好きだのなんだのって感情があるとは思ってなかった。男も女もみんな同じだ。ただ、そうじゃなかったってだけの話なんだよ」
「……と、言いますと?」
なんで聞き返すんだマサヤン……。
実は案外怖いもの知らずなのか……?
流石にグラもイラついてくるんじゃ……。
「お前の言う通りかもしんねぇってことだ」
あるぇー?
自嘲気味に笑いやがりましたよ倉原くーん。
……え?てことは……。
「じゃあ平子先輩のことも好きなんだな」
「違ェよクソが」
真顔で繰り出されたマサヤンの呟きに、グラが不愉快全開の顔で反論した。
「え?だって平子先輩のことも『死んでも御免』っつってたじゃんっ」
「それとこれとは違ェんだよ」
「ワタシ、アナタ、ヨクワカラナイ」
「俺はお前がよくわかんねぇよ」
……なんだコイツ等の会話。
つか、尾藤ワールドに真っ向から挑む奴ってグラくらいなんじゃね……?
めっちゃ仲良しじゃんコイツ等っ。
グラの奴、友達はクリケン1人いればいいってスタンスなのかと思ってたけど、今はカッチとマサヤンとも友達なんだな。
僕はグラの友達にはなれなかったっぽいけど。
クリケンも正確には友達じゃねぇな。
僕はつい、グラの横顔をガン見してしまった。
チクショウ、なんだその綺麗な顔。
同じ霊長類ヒト科とは思えないんですけど!
「なんだよ」
こっちを振り向いたグラと目が合って一瞬ギョッとしたけど、気合いで目は逸らさなかった。
ついでだから聞いてやれ。
「お前さ、やっぱ僕のこと……そういう意味で好きだったりする?」
…………えー?何そのゴミを見るような目ー。
お前に虐げられたいドMの平子先輩が見たらめちゃくちゃ興奮しちゃうよー?
「やっぱそうなの?グラ。お前ムッチのことめっちゃ好きだもんな」
ああ……マサヤンの場所からはグラの顔がよく見えないんだっけね……。
倉原君今恐ろしく不愉快そうな顔してるよマサヤーン……。
「俺にもよくわかんねぇんだけどよ」
顔をしかめて僕のことをガン睨みしたままのグラの口からスゲェ低い声が吐き出された。
「お前は違ェんだよ。ケンジとも、そこの犬みてぇなやつとも」
このヤンキー、さりげにマサヤンのこと犬っつったー……。
「違うって?どんなふうに?」
何故そこで聞いてしまうのか。
マサヤンはマサヤンでやっぱ怖いもの知らずだったわ……。
「いや、マサヤン。お前今犬扱いされたんだよ?まずそこにツッコミ入れようよ」
「え?俺ずっとグラに犬猫扱いされてっけど?」
「うっわ本人公認済みだった」
グラよ、お前にとって友達とは……?
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