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甘くない(2)

 放課後、マサヤンとグラとテスト勉強するためにファミレスに寄った。  不定期の勉強会だけど今日で4回目。  内2回は学校、ファミレスでやるのは2回目だ。  場所はファミレスだけど、マサヤンは「帰ったらメシ作って母ちゃんと食うから」って、あんま食わない。  グラも「家で親と食う」っつって、やっぱあんま食わない。  要するに、2人とも親と仲がいい。  親と仲が悪い、いや、今はそうでもないから"悪かった"か? つっても、いいって訳でも……そもそも親父帰ってこねぇしな。  まあ、そんな感じの僕は、放課後ファミレスなんつったらそりゃあもうガッツリ食う。  きっちり1食分食っとかないと勿体ないし。  だから今日も当然食う。  ……春威さんがメシ作って待ってるから本当は食う必要ねぇんだけど、マサヤンにもグラにも春威さんのこと話してねぇから食うしかない。  話そうにも、どう説明していいのかわかんねぇんだよな……。  2人は僕の親父がカタギじゃねぇこと知ってるけど、親父の部下が家政夫として家に住んでるって、なんか言いづらいっつーか……。  そもそも親父がアレなだけでもアレなのに、墨入れてる家政夫とか……。  僕は普通でいたいんだ。  いくら相手がマサヤンとグラでもそんな話したくない。  マサヤンはカタギもカタギだし、グラは僕とはちょっと方向性違うけど「普通でいたい」って意味では仲間だから、極力巻き込みたくないんだ。  巻き込んだ云々で言うと、春威さんは完全に巻き込まれた人だな……。  親父のせいで巻き込まれただけの春威さんに「メシいらない」って言うのも申し訳なくて、外で食って帰っても僕は残さず春威さんのメシを食ってる。  そのためにも昼だけはなるべく食わねぇようにしてるんだ。  春威さんは僕に弁当持たせる気満々だったんだけど、それだけはなんとか断った。  急に弁当なんか持ってったら、流石にマサヤンにもいろいろ説明しないといけなくなるし。  あとカッチ。  アイツには嘘が通用しないから、下手な言い訳も出来ない。  カッチはマジで探偵かなんかにでもなったほうがいいんじゃねぇかと思う。  正直言ってカッチ怖い。  怖いけど、隠しごと出来ない分なんでも話せて、アイツもなんでも聞いてくれるから、つい頼っちゃうんだよな……。  今回もカッチにだけは話しとくか……。    とりあえず、今は勉強より食うことに集中しよう。  放課後メシ食いに行くたびガツガツ食ってた僕が急に食わなくなったら、きっとマサヤンは僕の体調を心配する。  グラは多分気にしない。  けど、妙に勘がいいんだよな。  カッチはいろいろ分析してる感じだけど、グラの場合は本能っつーか野生の勘つーか。  いや、実はグラも頭使ってんのか?  テストの点数は僕並みにヤバイけど、グラは単にやらないから出来ないだけで、やる気出すと異常な集中力発揮するし飲み込みも早い。  もしかしたら、地頭がいいってやつなのかもしれない。  今は腕組んでふんぞり返って、電車で居眠りしてるオッサンみたいになってるけど。  ええもうガッチリ寝てる。  隣に座ってる僕的には少し足を閉じていただきたい。  大股開くなんてお下品ですわよってんじゃなくて、コイツ無駄に足長ェからめちゃくちゃ邪魔なんだよ!  壁際になんか座るんじゃなかった!逃げ場ないから閉じた足斜めにしてステキな女子みたいな座り方になっちゃってるしな僕!  押し返しても戻ってくるし!なんだこの足!ウゼェ!自慢か!?さりげない自慢なのか!?足短い僕に対する当てつけなのか!? 「グラは寝てるしムッチはメシ食うのに必死だし……やっぱ俺よりカッチに教わったほうがよかったんじゃね……?」  向かいの席のマサヤンが力なく笑った。  確かに隣の足&前髪長いマンは寝てるし、僕もメシ食うのに必死だけど……。 「ごめんマサヤン……。食い終わったらちゃんとやる。ぶっちゃけカッチよりマサヤンの教え方のほうがわかりやすいし」  カッチは教えるっつーより「俺の言う通りにやって、とにかく覚えろ」だからな。  それで実際カッチの言う通りに暗記だけやってれば点数取れるんだけど、ただ言われるがまま覚えるだけだから実はちゃんと理解出来てない。  でもマサヤンは、馬鹿な僕にもわかるように1から丁寧に教えてくれる。  わかんねぇって言えば一緒に考えてくれる。  ただ、僕の理解の速度に合わせてるとグラが飽きてくるんだよな。  グラはやれば出来る子だから、マサヤンの説明聞いてるだけで大体理解して、もたもたやってる僕を待ってる間に寝ちゃうんだ。  ……マジで馬鹿でごめんね……! 「カッチの教え方ってどんなの?」  なんかマサヤンが真顔で食いついてきたぞ。  今マサヤンは僕とグラに勉強教える自信なくしてるし、カッチの教え方聞いて活用しようとしてんのかな。  真面目だねぇ……。  ……そうだ、マサヤンは僕や隣のヤンキーと違って、真面目な普通の高校生だ。  ある意味僕の理想でもある。  普通でありたい僕的に、ここはマサヤン同様真面目に答えなきゃダメな気がする。  僕は最後の一切れになってたハンバーグを口の中に放り込んで、それをしっかり飲み込んでから口を開いた。 「カッチは、ヤマ張って予想問題作ってきて、その答えを丸暗記しろって言ってくる。しかも恐ろしいことに……そのヤマが外れたことがない」 「怖……っ」 「怖いだろ?アイツ曰く、テスト問題作る先生の出題癖大体把握してるからヤマ張るのも簡単なんだと」 「えー……?じゃあやっぱ俺よりカッチのほうが……」 「マサヤンは『覚えろ』じゃなくてちゃんと教えてくれんじゃん。僕の理解が遅いせいで、グラは退屈して寝ちゃうみたいだけど」  言いながら、僕はグラの足を押し返しながらグラの顔に目を向けた。  はい!足戻ってきた!  もうマジ邪魔この足!  つか、やっぱ……、 「綺麗な顔してんなぁコイツ」  春威さんに見せて言ってやりたい。  綺麗な顔ってのはこういうのだ。 「残念ながら……こちらからは前髪のせいでグラの顔が見えません」  めちゃくちゃ真剣な声で言われて振り返ったら、マサヤンは声同様スゲェ真剣な顔してた。  まあ、グラは俯いてる状態だから確かにそっちからは見えないよね。  それにコイツ、いつも前髪でほとんど顔見えねぇし、見えないと余計見たくなるよね。わかりみ深し。  という訳で。  僕はマサヤンにグラの顔を見せてあげようと、グラの前髪に手を伸ばした。  ……ら、いきなりその手をグラに掴まれた。 「何してんだテメェ」  寝起き丸出しの眩しそうな顔で睨んできたよコイツ!マジで寝てた癖に気づいて起きるとか……! 「お前、野生動物か武士……?忍者とかなの……?」 「あ?」 「あ?じゃないよ。なんで気配で起きるんだよ。怖ェよお前。つか、あんなんで起きんなら僕が足押してる時点で起きなさいよ。邪魔なんだよ、お前の足」  溜め息混じりに文句垂れてたら、マサヤンが「足?」と不思議そうにテーブルの下を覗き込んだ。  マサヤンにステキ女子みたいな座り方してんの見られた……恥ずかしい……。 「あー……」  理解したと言わんばかりの声を垂れ流しながら、マサヤンは姿勢を戻して苦笑いした。  そして、僕とグラを見て何故かいきなり目を見開いた。 「え?どうしたの?マサヤン」 「ムッチとグラ……座高あんま変わんなくね……?」 「やめてぇーっ」  僕は悲鳴を上げながら両手で顔を覆って俯いた。  知ってた!知ってたけど認めたくなかったやつだソレ! 「遠近法だろ。気のせいだ」  ぶっきらぼうだけどそんなこと言ってくれたグラ、優しい!  コイツこういうとこあるからモテんだよな……男に!  いや、コイツが男子校に入ったのは、物心ついた時から女に群がられててそれが鬱陶しかったからだ。本人から聞いた。  つまり、女にもモテモテだ。  そりゃこの顔だもんな。  同じ群がられるんでも、男は殴れるけど女は殴れねぇから男子校選んだとも言ってた。  春威さん、ガチで顔が綺麗な奴は男にも女にも群がられるらしいよ。  僕は自慢じゃないけど女に困ったことはない。でも、男に群がられたりはしてない。  つか、僕の顔見てうっとりする男はアンタくらいなんだよ春威さん! 「でもグラ、無駄に足長くね……?ズルくね……?」  気づけばマサヤンまでショックを受けてた。  そりゃな。顔いいわ身長あるわ足長ェわとか、同じ男としてショックも受けるよな。 「そんなん言ったらお前、ケンジどうすんだよ。アイツ、こういうとこのテーブルだと足収まんねぇらしくて、いつも横向いて座ってんだぞ」 「ケンジィーッ」  マサヤンがさっきの僕みたいに両手で顔を覆って俯いた。  つかケンジって……っ。  いつもクリケンって呼んでる癖にケンジって……!  吹きそうになったけど、マサヤンはそれだけショックだったんだと思ってなんとかこらえた。  でも、 「『足が収まらねぇ』って言われた時、マジで殺してやろうかと思ったわ」  真顔でそんなこと言い出したグラに流石に吹いた。 「お前……っ、どんだけだよっ」 「グラが殺意抱くレベルの足の長さってさ……つまりクリケンからしたら俺なんかほぼ胴なんじゃね……?『お前足どこだよ。ドラえもんかよ』ってレベルなんじゃね……?」  マサヤンが頭抱えてブツブツ言い出した。  ショック受け過ぎだよマサヤン!  

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