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第1話

田村がこの会社に入って5度目の春。 営業部門から経理部へ配置転換になって2度目の決算を終えた。 経理にとっては、本決算を迎えた3月から決算処理を終える5月初旬あたりまで、花見なんて楽しめないほどの激務だ。 ようやく年次決算も締めて、経理スタッフが日常に戻りつつあるというのに。 その知らせはやってきた。 「みんな、こころして聞いてくれるか」 週一回の朝礼で、難しい顔をした厚木の低い言葉に集まっていた経理メンバーがざわついた。 いつも朝から親父ギャグを連発して周りをムリやり笑わせる厚木部長が…!と田村は驚く。 「3年に一度の、税務調査が入る…」 「ええええ!!」 「マジかよ…この決算明けに!?」 厚木の言葉に、周りのスタッフが落胆しているのを田村は見渡す。 税務調査とは会計処理が適切になされてるか、税務署から調査官がこちらに出向き資料をもとに調査するわけだが… (何でこんなにみんな慌てるんだ?) 慌てふためくような裏帳簿でもつけてるのかと思ったが、バカ正直を形にしたような厚木を筆頭にこの経理メンバーはそんな事をしそうにない。 ポカンとしていると先輩である池田が話しかけてきた。 「お前は初めての税務調査だったな。じゃあ今は分かんと思うが…とにかく面倒なんだよ!色々資料探さないといけないし」 へー、としか田村は言いようがない。 オフィスを眺めながら綺麗に整理整頓されてるし(御局様の小泉女史のお陰だ)イマドキ、データなんてパソコンで見ればいいじゃないかとボンヤリ思っていた。 (大袈裟だなぁ) 「まあ兎に角、みんな悪いんだが対応をたのむ」 厚木はそう言って話題を変える。 今日はノー残業デーだ。 (早く帰って宅飲みでもするかな…) 先週買った焼酎でも飲むか、と考えていた。

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