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1《変わった新入社員》

俺は国近啓介(くにちかけいすけ)、45才。 仕事一筋のごく普通のサラリーマン。 今年、少し変わった新入社員が入ってきた… 歳は22才、見た目はやや小柄、ひょろいもやしのような細身の体型に肌は色白、黒髪は長めで後ろにひとつに結んでいて、前髪はボサボサ頭… 時々上の空で宙を眺めていたり、独り言を言ったり… 30分と仕事に集中しない新入社員、東洞尊(とうどうたける)。 最近の新入社員は変わり者もたまにいるから、慣れてはきたが…東洞は別格だった。 社長から、しっかり指導するよう担当につけと言われたから、仕方なく目をかけることとなった…。 「おい、東洞!手を動かせ、集中して作業するんだ」 「あ、はい…すみません」 喋り方もややスローペース。 「ったく、そんなんじゃ1日かかっても終わらないぞ!」 「あの、国近さんがいると、その…集中できなくて…」 「はぁ?俺がいなくなったらもっとやらないだろう、俺だって好きで付き合っているんじゃないんだぞ!」 「……はい」 「ていうか、髪は短くしろと言っただろうが…うっとおしい!」 「すみません…それは諸事情で出来なくて…」 「はぁ?なんだよ、諸事情って」 「すみません、他のことならなんでもしますから…髪は勘弁してください…」 「ならまず仕事に集中しろよ」 「はい…すみません」 そう謝って仕事を始める東洞だったが、すぐ窓の方へ気がそれている。 「はぁ…」 こんな調子で、そうとう変わり者、教えても性格の問題なのか作業効率は全く上がらない。 しかし、指導を任せられているから… 仕事が進まないのは、もしかして俺のことが怖いからだろうか… 時々、東洞はこっちを見て怪訝な顔や、青ざめたような顔をすることがある。 まあ、確かに…20才ほど年の差もあるし、少し威圧的だったかもしれない。 思い直した俺は、東洞と親しくなれるよう、終業後、食事に誘ってみた。

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