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第1話

 恋も二度目なら上手くいくと誰かが言っていた。  何かの歌詞かもしれない。  もし、そうなら次の恋が上手くいくといいなとそう願った。  あの人の次の恋が、幸せな結末ならいいと。 「君って笑えるの?」  そんな上司の何気ない言葉がきっかけだった。  システムエンジニアとして入った職場のはずが、その一言で営業課に異動となった。  同じSE課の同僚には「精々、頑張れ」とからかわれ、営業課への異動を希望していた他の課の人間からは多少のやっかみを受けた。  しかし、期間限定での異動であってすぐに元の課に戻されるとわかるとそのやっかみもすぐなくなった。  代わりに男性、女性問わず羨ましがられるようになった。  異動した先で睦月に付いた指導係は海外勤務からこの本社へ戻って来てからずっと営業成績上位、人当たりもよく、端正な顔。モテるくせに浮いた話の一つもない完璧と言っても過言ではない男。  そんな男が指導係に付いたのだから羨ましがられて当然だ。 「いやー、災難だったね、SE課の課長さんってそういう面白いとこあるからねー」  異動して最初にその男の挨拶に行った際にそう言われて微苦笑された。  何が面白いだ、と睦月はげんなりした。 「まぁ、期間限定なんだから気楽にやってよ」  微笑んだ彼は、男の睦月が見ても魅力的で顔が良いとそれだけで他人に与える印象がプラスになって生きやすいだろうなと思った。  それが、松田葉月との出会いだった。  顔だけで営業成績がいいのではないかと思っていたが、実際、一緒に営業先に回ってみるとそうではないことがすぐにわかった。  とにかく、人を楽しくさせる空気の持ち主でどんなに気難しい相手でも気が付くと笑っている。その次の瞬間には契約書にサインがされているのだから、松田の隣に座っているだけで何も出来ない睦月には松田が何か魔法でも使ったのではないかと有り得ないことを妄想してしまうほどだった。 「それにしても清沢くん、ホントに笑わないねぇ」 「はぁ……すみません……」 「いやいや、怒ってるわけじゃないからね? 知り合いにも清沢くんみたいになかなか笑顔見せない人いるけど、笑わないからって冷たい人間ってわけじゃないからさ」  営業先からの帰り道、喉が渇いたからとコンビニでよく冷えたお茶を二本買ってそのうち一本を睦月に渡すと、松田は自分の分のお茶を開けてグビグビと飲み干す。  スーツを着て働くサラリーマンにはきつい季節。梅雨もすっかり明けて太陽が燦々とアスファルトを照りつける真夏。  睦月より少し背の低い松田を横目で見ると、額から汗が流れた。太陽の光で汗が光り、眩しくて目を眇めた。

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