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終章【選択・参】要黒の欒④
「反省したなら互いに向かい合え」
「え?」
「はい?」
「いーから、早くしろ!」
もう此の海岸に何時間居るのだろうか。真っ黒だった水平線は徐々に暖色を増していき、空が白み始めた。
切り上げ時とも考えた中也は、忠実に岩場の上に正座をする二人を見て足を崩し腰を浮かせる。意図は知れぬ儘従った方が吉と判断した敦と芥川はちらりと横目で存在を確認した後、肩から互いに向き合う。
ごっっ!!
中也は向かい合った二人の後頭部を鷲掴みにして中央に向けて叩き付けた。二人の額が骨から鈍い音を出す。痛みが許容を超えた場合、声など出ないもので敦と芥川は己の額を抑えて脳迄揺さぶるかの様な振動に苦悶の表情を浮かべる。
「脳筋」
「五月蝿ェぞ淫売」
本当にお互いが一番に想い合っているのかと疑いたくなる言葉の応酬に疑念を抱かざるを得なかった二人ではあったが、云い合う二人の顔の近さや躰同士の密着具合に失意の溜息を漏らした。
「皆が心配するしね、そろそろ帰ろうか」
水面は黄金色に輝き始め、眩しさに目を細め乍ら太宰は両膝に手を当てて立ち上がる。
此れで赦されたとは万に一つも思えないが、言葉だけの謝罪ならば何時でも出来る。太宰は抑々謝罪等初めから求めてはいない。此れ迄の事は、此れからの行動で示して行く事が何よりもの贖罪となる。
「中也、二人に何か云う事が有るんじゃあないの?」
「はァ!? 何で俺が」
「中也が云う事に意味が有るんだって」
肩を並べ寄り添い歩く中也に太宰はこそりと耳打ちする。太宰から何かを訊いた中也はわなわなと両肩を震わせるが、更に何かを耳許で告げられるとばつの悪い表情を浮かべ乍らも技巧ちない動作で背後に立ち竦んだ儘の敦と芥川を振り返る。
其の剣幕に怯む二人だったが、何かを告げんとする中也の表情に注視する。
「……に、」
「「に?」」
「二度目は無ェからな」
「違うちがーう、そうじゃ無くて」
「誰が云うか調子乗んなッ!!」
中也の鉄拳を喰らい伸びた太宰を抱え上げ、未だ其の場に立ち竦んだ儘の敦と芥川に一瞥を向ける。
「……解ったなら返事は?」
敦と芥川は二人揃って姿勢を正す。
「解りましたお父さん」
「御意……お父さん」
「だ、れ、が! 父親だ!!」
――選択・参【〆】
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