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前篇

(さとる)は友人である伸一が好きだ。 中学生からの腐れ縁。高校も同じ所を受験して一緒に合格した。 まさかのクラスまで一緒になってしまい、それを見たときには ふたりで苦笑した。 そんな中、ただならぬ自分の想いに気付いたのは高校2年生のとき。 いつも伸一の姿を追っかけている事に気づき。 進路についての相談をされた時にとうとう離れてしまうのか、と 思った時に自分の胸の痛みに気づいた。 伸一がいない暮らしが想像できない。 そう感じ始めていると、いつも横にいる伸一が「愛おしく」 思えてきたのだ。 ただ、智にはこの想いを伸一に伝える気持ちはない。 告白する事によって伸一が拒絶し、離れて行ってしまったら。 そんなことになるくらいなら「友人として」隣にいるほうがマシだ。 神様がいない限りこの恋は成就出来ないのだ。 *** 「昨日は0時過ぎまでゲームしててさー、流石に眠たいよー」 伸一が大欠伸しながら机に顔をつける。 大のゲーム好きである伸一は夜更かしをしては、いつも授業中にウトウトしていた。 「0時ならまだ早いんじゃないか。3日前はもっと遅かったろ」 「まあねー、あの日はボスキャラと戦ってたからね!」 おかげで勝てたけど、と笑顔を見せた。 智と違って愛嬌のある顔をしている伸一はいつもよく笑う。 「智もやって見たらいいのにー!面白いよ」 「…まあ、そのうちな」 そう言いながらも智はゲームには全く興味が無かった。 伸一のゲーム好きは相当のもので、ゲームのイベントに行ったり、コスプレの イベントに参加したりしている。 一緒に楽しめばいいのだけど、智にはそこまで情熱が持てそうに無かった。 「あ、そうそう!智にすんげえお願いがあるんだけど…」 ガバッと起き上がり、手を顔の前で合わせて「お願い」ポーズをする。 (あー、可愛いなあ) 智はそんなことを思いながらも、いつものポーカーフェイスを崩さない。 「…なんだよ」 「コスプレやってくんない?!」 唐突な頼み事に、智は頬杖をしていた手が外れそうになった。 「…は?!なんだそりゃ」 「いやー、今月末にイベントがあるんだけどいまやってるゲームのキャラ出したいんだよね」 目を輝かせながら、語りに入る伸一。 「そのキャラがさあ、智にソックリなんだよ!RPGのキャラなんだけど、設定とか姿が!」 賢くて、冷静で。そうそう、キャラデザも似てるんだ!背が高くて華奢で!と興奮 している伸一を智は呆れるように見ていた。 「そんなに好きなキャラなら自分でしろよ」 「いや俺じゃ全くイメージ違うんだって〜〜!ね、頼む!コスプレしてよ!」 一緒にイベント参加しようよーーー!と伸一が必死に頼んできた。 こうなると、惚れた弱みか、智も強く言えなくなってしまう。 (まあ服着るだけだしな…) 深く考えこむ智に、伸一はずっと手を合わせていた。 「…いいよ、やってやるよ」 「わーーい!!!早速なんだけど、このキャラなんだ!」 大喜びする伸一。この笑顔が見れるならいいかと、智は思いつつ伸一が差し出した スマホの画面を見た。 「…おい、伸一」 「何??」 「このキャラ、女じゃねえかよ!」 「そうだよ、賢くて美しい、民の事を最優先に考える王女なんだ!」 (いや、そういう事じゃなくて…!!) くらっとめまいを起こしそうになった智。 (オレに女装しろというのか?) 「無理!」 「えっ、やってくれるって言ったじゃんか」 「女とは聞いてねえよ!!」 「大丈夫だよ!智はカッコいいから絶対似合うって!!」 背も高いし、モテるし、と必死に語る伸一。 カッコいいの言葉に、一瞬嬉しかったけども。 突然、伸一が智の手を握りお願い!!と迫ってきた。 伸一のキラキラした目が智を捕らえる。 (ああああもう…!) 理性が飛びそうになるのを必死に堪えて、智は渋々OKした。 *** 伸一からもらった「衣裳」はヒラヒラのドレスでは無かった。 聡明な王女はシンプルな服だったので、まだ助かったと智はホッとした。 よく見る胸や脚を強調するような衣装でなかった事に感謝した。 それでも女装である事にはかわりないのだが。 言われた通り服を着て、伸一に薄化粧(!)も施してもらい「王女」の 出来上がりだ。 「わーーー、やっぱりイメージ通り!!」 仕上がりを見て伸一は手を叩いて喜ぶ。 智は髪飾りで重くなった頭をゆっくりと鏡の方へと向けた。 (お…) シンプルな衣装に身を纏って化粧を施された自分は確かに「女性」に見える。 自分で言うのもおかしいが、けっこうな美人に仕上がっている。 「化粧のせいもあるけど、もともと智はカッコいいから美人さんになるよね」 ニコニコしながら伸一は満足そうに笑った。 美人さんと何度も連呼する伸一に智も微笑んでいた。 ふと、智は考えた。 (オレが女だったら、伸一は惚れてくれただろうか) 同じ顔なのに。 そんな事を感じたが思ったところでどうにもならない。 この恋は諦めるしかないのだ。 「じゃドア開けるよ。ここからは撮影可だから、色んな人が来ると思うけど…」 頑張ってね!と伸一がガッツポーズをする。 伸一自身は勇者の格好をしていた。どうやら智がやっているキャラのお伴のキャラらしい。 流石の智もポーカーフェイスが崩れる。女装して撮影なんてありえないと思っていた。 (ええい、どうにでもなれ!) これも伸一のためだ、と自分を奮い立たせた。

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