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後編
撮影会が行われている広場には色んなコスプレイヤーたちが群がっていた。
そんな様子も初めて見て、智は面食らう。
(すげえな…)
圧倒されながらも「キャラクターに成り切って」背中を伸ばす。
このキャラは気高く聡明な王女だ。どうせならキャラに成り切ってやる。
お得意のポーカーフェイスがまさかこんな所で役に立つとは。
颯爽 と歩くと、あたりがざわついた。
(なんだ…?)
歩き方がおかしいのか?とか思ったが聞こえてきたのは…
『あの人、XX王女じゃない?すごーい!イメージ通り!』
『あのクオリティ、ヤバくねえ?ホンモノじゃん』
気がつくと、数人から撮影を頼まれるほどになっていた。
慣れない撮影にどうしたらいいか分からず固まっていたが、それがまた
王女とリンクするらしく時々、黄色い悲鳴さえ上がっていた。
これには先を歩いていた伸一も苦笑いしていた。
撮影も慣れて着たきたころ、気がつくと伸一がいなかった。
探して見たものの、見当たらない。
(まあ、あと数時間だしな…)
早くこの衣装から解放されたい。
化粧も薄いはずなのに皮が一枚張り付いているようだ。
ふと、智は前方にいた大きなカメラを持った集団に目をやる。
集団は10人くらい。皆、男性だった。
ただ、今までもいた男性の参加者と雰囲気が違っていた。
(なんだこいつら)
智が男性ということが分かっていないのか、不快な笑みを浮かべながら
近寄ってきて、気がつくと囲まれてしまっていた。
同じ男性でも相手が「性的に」見ていると思うと、
恐い、と感じた。
やめろと一声かければいいだけなのに声が出ない。
この衣装を着ているからなのか、自分がまるで女になったかのように。
恐怖で、青ざめていく。
「智…!」
背後から伸一の声が聞こえて我に返った。振り返ると勇者姿の伸一が走ってきて
連中の間に割り込み、智の手を引っ張った。
連中のブーイングの声が聞こえる中、伸一は信じられない程の力で智の
腕を握っていた。
走って更衣室へと転がり込んで、床に座り込む。
伸一は腕を握ったままだ。
「伸一、痛い」
少しだけ落ち着いてきた智がそういうと、慌てて伸一は手を離す。
「ご、ごめん…」
腕を離されて、智は両手で顔を覆う。
まだ、顔が青ざめているような気がして。
その様子を見ながら、伸一が謝ってきた。
「智、ごめん…恐い思いさせて」
顔を覆ったまま、智はため息をつく。
「…別にお前のせいじゃないし、ちょっと驚いただけだ」
あんな異常な雰囲気を味わうなんて思わなかった。
女の子達は怖くないのだろうか。
「でも…ッ、オレがいなかったから…」
声が震えていることに気づいて、智は覆っていた手を外し
伸一のほうを見た。
大粒の涙を落としながら、しゃくりあげている。
慌てたのは智だ。
「お前っ、何泣いてんだよ」
「だって、オレが誘わなきゃ…」
こんな恐い思いさせてしまって、と声にならない。
「大丈夫だって、俺も男なんだから、あんなの…」
逃げれたさ、と伸一をなだめながらも胸が痛くなってきた。
今ここで、伸一を抱きしめたい。
自分のために泣いている伸一が愛しくて堪らない。
もう、抑えられない…
気がつくと智は伸一を抱きしめていた。
「…智?」
急に抱きしめられて伸一が驚く。
「悪い、伸一。ちょっと、このままでいさせて」
抱きしめた伸一の鼓動と自分の鼓動が重なる。
(もう、ダメだ)
「なあ伸一。俺…、お前が好きなんだ」
耳元でゆっくりと、言えなかった想いを伝える。
「男同士でさ、気持ち悪いと思うけど…もう自分を抑えられないんだ。
高校卒業してもずっと一緒にいたい。離れたくない」
「…」
伸一は何も言わない。ただ、智に抱きしめられたままじっとしている。
「お前が喜んでくれると思ってコスプレしたんだ。なのに、泣くなよ」
動かない伸一に、智がゆっくりキスをした。
「…智」
唇を離すと、伸一がようやく智の名前を呼んだ。
「オレも離れたくないよ。だって、今まで智が居てくれたから…」
「それはでも、友人としてだろ?」
「…そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないし」
モジモジと伸一が俯く。
「オレだって、分かんないけど!お前から告白されても、気持ち悪くない」
「え…」
伸一の言葉に、智が思わず顔を見つめる。
「さっきだって、すっごい胸が痛かった。友人だけならこんなに思わない」
どんどん伸一の顔が赤くなってゆく。
「多分、オレも智が好きだ」
驚いたのは智だ。
諦めモードの告白が、まさかの満点ホームラン。
「じゃあさ、お前キス出来んの」
恐る恐る智がそう言うと、真っ赤な顔をした伸一が無言で唇を重ねてくる。
「…!」
智はゆっくりと伸一の口に舌を入れる。
「ん…」
ゆっくりと、何度も、気持ちを確かめるように。
王女と勇者のキスは続いた。
コスプレの神様、ありがとう!
【了】
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