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〈Ⅰ〉冷泉 柾

 冷泉(れいぜい)(まさき)は、学者や政治家などを多く輩出している名家、冷泉家の跡取りとして育てられていた。  冷泉家は特権階級たるα(アルファ)の血筋であり、その後継である柾ももちろん、α性である。  生来器用で何でもよくこなした柾は、小学校就学前から様々な習い事をしたり、大学教授の父から直接、跡取りとしての指南を受けることもしばしばだった。  そんな頭の回転の早い柾だったが、ひとつどうしてもわからない事があった。  彼の兄、(あずさ)のことである。 (どうして、兄さんではなくて僕が跡取りなのだろう?)  梓と柾は、異母兄弟である。梓の母は彼を産んですぐに亡くなっているが、それが理由とも思えなかった。  柾は、父に訊ねた。 「どうして梓兄さんではなく、私が跡取りなのですか?」  父は少しの間を置いて答えた。 「お前と梓は、生まれが違うのだ。いずれきちんと説明する」  ◇  ◇  ◇  柾が、名門男子校である鳳麟(ほうりん)学園中等部に入学する年に、父は約束どおり梓について柾に話をした。  それは、聡明な柾が成長し、世の中の仕組みや自分の両親について理解していくにつれ、そうではないかと考えていたとおりの事実であった。  柾の兄、冷泉梓はΩ(オメガ)なのだ。

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