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〈Ⅰ〉-2
人間の性別には2種類ある。
ひとつは、男と女。
もうひとつが、α、β、Ωである。
統計によれば、全人口の約20%がα 、約5%がΩ 、残りがβ だという。
αは、特に知能や容姿に優れている性であり、特権階級の名家や富裕層などに多い。
カーストの最上部に位置するα唯一の弱点とも言えるのが、妊娠成功率の低さである。
α男性がα女性、β女性と子を成そうとした時、妊娠が成立する可能性は著しく低い。
α特有の染色体が関係しているとも言われているが、その原因は未だわかっていないのが現状だ。
しかし、α男性とΩ性(男女問わず)の妊娠成功率は、人口の大多数を占めるβ男性とβ女性のそれとほぼ同じになるのである。
Ω は『産みの性』である。
Ω性は子孫を確実に残すことに特化しており、2~3ヶ月に一度ある『ヒート』と呼ばれる発情期に受精すると、100%に近い確率で妊娠が成立する。
Ωが『ヒート』期間に分泌するフェロモンはαにだけ有効で、α男性の出生率が上がるのもその為である。
しかしながら、デメリットもある。
『ヒート』期間である約1週間、Ωは常に発情した状態となり日常生活も儘ならなくなる。
そして、Ωの発情フェロモンは知能の高いαの理性を崩壊させ、Ωを妊娠させることしか考えられない獣に変えてしまうのだ。
気位の高いαの中には、自身の理性を無くさせるΩの存在を疎ましく思う者もいる。
しかし一方で、α家系の間では古くから『α男性とΩ男性が子を成し、α男性が生まれた場合が一番遺伝的に優れている』と考えられてきたことも事実なのだ。
現在、医学的根拠はないことが明らかになっているものの、依然としてα家系ではΩ男性を娶ることを重要視する傾向にあるのである。
◇ ◇ ◇
「お前ならば、梓 がΩであると疾 うに解っていただろうな、柾 」
「あの質問をしたのは小学校に上がる前です、父さん。性別の何たるかを理解していない頃とは違います」
柾の父は「それはそうだ」と笑って頷いた。
「αの家系に生まれたΩ――特にΩ男性は、貴重な存在だ。梓もいずれ、冷泉家 と並んで遜色無いαの家柄へ嫁ぐことになるだろう。それまでは、お前が梓のことをしっかり守るんだぞ、柾」
「――はい。父さん」
その返答は、柾の心にズシンと重く響いた。
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