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第1話

 転入生であるスモモくんはとても個性的な頭をしている。  アフロ一歩手前のごわごわとした髪の毛は天然パーマというにはとても人工的。  でも、カツラを被る理由が分からない。  頭髪や頭皮に問題があるのならもっと自然なカツラを被るものだろう。  お金の問題でカツラを作ることが出来ないのならこの学園に編入も出来なかったはずだ。  特待生とはいえ、この学園で過ごすのはお金がかかる。     僕、氷谷りうは特待生だけれど学内でちょっとしたバイトでお金を稼いでいるのでなんとかなっている。  一つ一つはそこまでお金にならないけれど複数あればなんとかなるものだ。  日々コツコツと積み上げて僕は生活できているけれど、スモモくん、彼はどうなんだろう。  こう見えてお金持ちなんだろうか。  それなら特待生にはならないだろうから変な時期の転入と同じく「お家の事情」というやつかもしれない。    特待生は原則一人部屋だけれど転入生はまた別だ。  学園に慣れていない子を放っておくわけにはいかない。  そのため少しの間、一人部屋の相手と共同生活をする。    僕以外にも一人部屋の生徒はいたはずだけれど色々と吟味された上で僕に決まった。  理由の一つはきっと僕に恋人がいたことだろう。    風紀委員長をしている榛名(はるな)重蔵(じゅうぞう)。  重々しい名前だけれど見た目は軽やかな雰囲気の美青年。  黒髪なのに碧眼だから、ふと目が合うと不思議な気がしてジッと見てしまう。  それが榛名との始まりだった。光の加減なのかと思ったら碧眼だったので見入ってしまった。   『俺のこと気になるの、お姫様?』    男の僕にお姫様呼ばわりは気になったけれど榛名は王子様と言って差し支えない見た目だったので何だかその言い分は似合っていた。  その眼の色も榛名のことも気になっていたのは確かだ。  僕が頷くといつの間にか榛名と付き合うことになっていた。  交際期間、約一ヵ月で破局とはその時は思わなかった。    転入生のスモモくんは風紀委員長である榛名と仲がいいらしい。  生徒会役員と仲良くなったスモモくんは親衛隊から制裁を受けて榛名に助けてもらったという。それからスモモくんは榛名に懐いて始終一緒にいるみたいだ。    僕は付き合っているといっても忙しくなって風紀委員長として動いている榛名とは全くコンタクトが取れなかった。榛名はメールも電話も嫌いだと言っていた。ただでさえ風紀委員長として休みなく連絡がきて働かされているからプライベートでメールも電話もしたくないのだという。分からなくもないので僕は榛名から連絡を来るのを待っていた。    その日が永遠に来ないなんて思うこともなく。    スモモくんは毎朝早く起きて静かな食堂で榛名と食事をしているらしい。一度だけ一緒に行ったことがあるけれど遠回しに榛名にやめるように言われた。僕が低血圧だからとか食堂の料理が口に合わないことを知っているからかもしれない。    お金の問題もある。  たまになら気にならなくても毎食だと気になる出費だ。  スモモくんは気にしたところがないのでやっぱりそれなりにお金持ちなのかもしれない。    特待生は半額で食べられるとはいえ自炊の方が安く上がる。  いいや、僕に限って言えば自炊をするとお金がもらえる。  これが僕のちょっとしたバイトの一つ。  

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