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第1話
戦いとは、常に対等の立場である者達が引き起こす争いである事は、いつの時代を見ても明らかだ。
戦争と呼ばれる歴史には、何より自らが得たい物の為に戦う、と言う視点がある。
無論国家間における戦争の役割は、あくまでも『外交手段』の一つであるからして、その外交努力の結果が人の生死を分ける戦争へと発展する。
領土が欲しい、権利が欲しい――様々な理由から外交は行われ、互いに納得が出来ない場合は、互いの国力を大きく削る事の出来る戦争へと発展する。
今、行われている戦争も、その結果が生み出した戦争とも言える。
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眼前には、荒野が広がっていた。
砂と僅かな草木以外は何一つも無いような、そんな荒野を想像すればいい。
空気には、視認できる薄紫の霧が舞っていた。一見するだけで、人はそれを危険と認識するような霧は、しかしそこかしこに舞い散っている。
『改めて見ると、死地だな』
左右のスピーカーから流れるくぐもった音声を聞いて、カンナも「ハイ」と頷いた。
「これが、地上――なんですよね」
『そう。かつて反映を築き上げて来た我が人類のいるべき場所さ』
「嘘みたいです。こんな排他的な場所が地上だなんて」
『嘘じゃ無いさ。これが現実、これが世界の真実さ』
今まで荒野しか見えなかった光景に、一つの人影が見える。
いや、正確には人では無い。
カメラに映るは、人型機動兵器だ。
プロスパー。
英語で繁栄を意味する名を与えられた人型機動兵器は、元々作業用ユニットであったパワードスーツだ。全長は約六メートル、総重量は十五トンにもなる。
荒野に砂塵をまき散らして、前進する一つのプロスパーは、全体的に灰色の塗装の施された、角ばった六等身の機体だった。
型式番号はPP-09A【タスク】
その手には人間が使用するアサルトライフルをプロスパーサイズまで肥大化させたライフル、肩部には誘導式四連装ミサイルランチャーが装備されている。
かくいうカンナが駆るプロスパーも同様だ。
タスクはライフルとミサイルランチャーを装備し、脚部のホバークラフトを稼働させながら、砂塵を後方へまき散らし、荒野を前進する。
『もう少しで旗艦とのランデブーポイントだ。最後まで気を抜くな』
カンナの上官である、シエン曹長にそう喝を入れられ、操縦桿を再びきつく握りしめたカンナには、センサーが認識した所属不明機を、見逃すことはしなかった。
「隊長、所属不明機接近。数四」
『ミューレの連中だ。こんな所まで来やがった、くそ』
毒づきながらも機体を反転させて、ライフルの弾倉確認を済ませたシエン機は、カンナ機に軽く触れながら、彼らを追うように接近する所属不明機に向けて、前進する。
『軍曹、これより敵機との交戦を開始する。だが、あくまで我々の任務は偵察だ。無理せず、旗艦の位置を悟られぬよう行動すればいい。敵機を撃破しても、お陀仏しちゃあ二階級特進だけだ。女を抱きたきゃ生き残れ』
「は……はいっ」
『いい返事だ――来るぞ!』
眼前へと迫った、四機のプロスパー。
だがその姿は、カンナ達が駆る【タスク】とは違い紺色、装甲は丸みを帯びたステルス性の高い機体だった。
頭部は相手を視認しやすくする為の全方位カメラが取り付けられ、その胴体は小さい。胴体から伸びる四肢は非常に肥大化しており、バランスの良い機体とは言えない。
だが、高出力のバーニアと脚部のホバークラフトで荒野を疾走する姿は、早い。
独立国家【ミューレ】が開発したプロスパーである【ウォレン】が四機。それぞれその速度を利用した、こちらをかく乱するかのような乱れた動きで接近してくる。
シエン機は、まず牽制と言わんばかりにライフルの銃口をそちらに向け、乱射を開始。
だがそれをひらりひらりと避ける動きを見据えて、今度はカンナに向けて指示を出しながら、二機でミサイルランチャーを展開する。
同時に放たれる四連装ミサイルは、それぞれ敵機を認識しながら誘導され、大きな音を轟かせながら、敵機に向けて伸びていく。
【ウォレン】四機の内、三機はその手に持ったサブマシンガンでミサイルの迎撃に成功するが、一機は迎撃が間に合わず撃墜されていく。
『良いぞ。後三機、気を抜くな』
「はいっ」
四連装ミサイルは、次弾装填までの時間がかかる。襲いかかる三機のウォレンの動きをよく見ながら、カンナはその脚部目がけて、ライフルの引き金を引いた。
発砲。ばら撒かれた銃弾は、地面に着弾し砂を抉り散らすか、その弾がウォレンの脚部に命中するかしていた。
そして、その内二機の動きが鈍った所で、四連装ミサイルの次弾装填が完了する。
ロックオン、弾頭の制御を確認した上で、カンナは引き金を引く。
三機のウォレン目がけて放たれる四連装ミサイルは、二機のウォレンを破壊し、なおも追尾弾頭が残りの一機に迫っていた。
が、その一機だけは、動きが別格であった。
高出力バーニアを吹かしながら、地面を滑走するウォレン。その手にあるサブマシンガンにて、背後に迫る追尾弾頭を一瞬だけ見据えた上で引き金を引き、銃弾で叩き落したのだ。
『気を付けろ。奴は手ごわい』
「エース……!」
そして、接近を許した。
先ほどまで、四機との距離はあくまでミサイル以外の攻撃は有効ではない範囲での戦いだったが――今や、双方のサブマシンガンやアサルトライフルの、銃弾が届けば、致命傷となり得る。
これからは、こちらからの一方的な攻撃だけではなくなる。殺し合いになるのだ。
『落ち着け。俺が先頭に立つ。お前は援護だ』
「でも、逃げた方が」
『コイツをここで放っておけば、後々面倒は確実だ。今数で有利ならば、仕留める』
シエンがライフルを構えながら、機体に急制動を駆けて、敵ウォレンと接触する。
一瞬だけ、サブマシンガンとアサルトライフルの銃口が触れ合った瞬間に、二機の拳が互いの拳から放たれる攻撃を防ぎ合った。
それは一瞬の事で、すぐに距離を取った二機は、サブマシンガンとアサルトライフルの銃口を互いに向け、引き金を引く。
ばら撒かれるライフルの銃弾を避けながら、放たれるウォレンのサブマシンガン。
弾数も多く、正確に放たれた射撃を避けるシエン機との勝負は、ほぼ互角に見えた。
だからこそ、カンナは息を呑んだ後に、引き金に指をかけた。
発砲。アサルトライフルの銃口から放たれた弾丸が一発、ウォレンの右脚部に命中し、一瞬動きを鈍らせる。
『ナイスだ、もらった!』
賞賛の言葉をほどほどに、シエン機のタスクは右腕部の関節部に格納されていたダガーナイフを一本取り出し、その切先をコックピットに突き刺すべく、接近した――
だが、サブマシンガンの砲身が一瞬の内にシエン機へと向けられ、引き金が引かれた。
放たれた弾丸は、全てシエンが駆るタスクへと命中し、何発かはコックピットを貫いていた。
「隊長ッ!」
叫ぶ。だがシエンからの返答は無い。
シエン機は次第に態勢を崩し、その巨大な機体を荒廃した地に預け、動かなくなった。
――戦死したのだ。その銃弾に貫かれ、彼は断末魔の一つ上げる事無く。
頭の中で、何かが湧き上がるような感覚が、カンナを襲った。
カンナはグッと操縦桿を握りしめると、動きを止めるウォレンへと、襲い掛かる。
機体と機体をぶつかり合わせてウォレンの巨体を地に預けさせると、そのまま頭部を殴りつけた。
「テメェ――よくも隊長を!」
『つぅ……!』
接触回線から、僅かに敵パイロットのうめくような声が聞こえる。その声から敵を予想できる事は出来ないし、カンナにとってもそれは無意味な行為だ。
カンナは、先のシエンと同じく右腕部の関節部に格納されていたダガーナイフを取り出すと、ウォレンは組みつかれたタスクの機体を蹴り飛ばし、その場から退避を始める。
その姿を見据えて左手で持ち直したアサルトライフルの引き金を引き、また更に四連装ミサイルランチャーの弾頭も放っていく。
脚部を負傷したにも関わらず、動きを鈍らせる事無くその場から退避を始め、接近してくるウォレンの動きを見据えながら、カンナはそのダガーナイフの切先で、ウォレンが持つサブマシンガンの銃口を切り裂いた。
だが、ウォレンの腕にも、ダガーナイフは握られている。
その切先の行動範囲を予測しながら機体を敵左方に動かすと、ダガーナイフは機体側面をかすめた。
両者が躱した、躱された事を確認すると、互いにダガーナイフを掴み直し――
機体コックピットに、その切先を突き刺した。
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