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側に居ても、離れてもずっと(紫陽花×桜)
私主催の企画「君と僕の距離」に投稿したものです
紫陽花年季明けから数年後
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「ん、ッあ……それ、やめろ」
「まさか、感じてると分かって止めるわけが無いでしょう?」
「くっ……ほんと、も、むり……だから」
私は真っ赤な顔で快楽の波に耐える桜の太腿を掴み、不規則に腰を打ち付けた。もうすぐ桜は気をやるだろう。
「は、あ……あぁ……んっ、あ」
「あ……ッは、あ」
予想通り、すぐに桜は絶頂を迎え、その直後に私は避妊具越しに精を吐き出した。
それはとても懐かしい記憶だった。私と桜がまぐわったのは二度、それも“仕事で”だ。この男遊郭、華乱(からん)には抱く側と抱かれる側の花魁が居て、更にそれぞれタチネコの一番を「上級花魁」と呼ぶ。私がタチ側、桜がネコ側の上級花魁としてすぐ隣同士で約四年間肩を並べていた。
約四年、私の隣には桜が居て、桜の隣は私だった。その間に得た互いへの絶対的な信頼と何とも言い表せない友情は今もなお変わっていない。例え桜が長年愛した恋人に身請けされ、桜という名を捨てて今も遠い地で仲睦まじく暮らしていようとも。私が引退して花魁を辞めてからも。
「紫陽花、酒持ってきた」
それでも元旦の5日後、必ず華乱にやってきて酒を酌み交わす。今日はその日だった。
「柊さんに頼んでいつもの部屋は空けて貰ってるから先行ってて」
「あいよ。ってか、珍しく何考えてたんだ?」
「嗚呼……お前を抱いた時の事をね」
桜は眉を顰めた。やめろ、と視線で訴えている。
「欲求不満なら他を当たれ」
「言われずとも。彼氏持ちの男に手を出す趣味は無い」
そんな話をしながらの呑みは互いの生存報告に近い。
わざわざ近状を聞く必要はない。何処で何をしていようが、生きているならそれで構わない。病床に伏して死線を彷徨おうとも、側で看取るつもりは無いし看取られる事も無いだろう。多少の苦労にも手を貸す事もしないし、されない。
あの頃は私達は互いに支え合った。華乱で最も見物人の興味を引き付け、客を悦ばせ、稀に訪れる質の悪い客には二人がかりで相手をし他の花魁を守った。私と桜の評判が華乱の評判と言っても過言ではない。会話を楽しむ仲ではないが、必要とあらば幾度も話し合い、本音をぶつけ合った。
「あれ、もう空かよ」
不満そうに唇を尖らせる桜の顔は水を飲んでいるかのようにけろっとしている。持ち込んだ酒が無くなればお開きだ。
「それでも半分以上は飲んだでしょう。足りないなら次は樽ごと買ってきなさい」
「分かった。俺が運ぶから金はお前な」
「本気で担いでくる気か?」
「やってやるよ」
「では来年は酒屋の前で待ちましょう」
「おう。じゃあな」
そう言って部屋を出ていく桜を裏口まで見送ってから片付け、雑務部屋へと戻る。
「また来年……会えればいい」
今の距離に不安は無い。桜には桜の生き方があって、私には私のやるべき事がある。それに口出しも干渉もしない。けれどもし、桜が窮地に陥ろうものなら私はそれが日本の端だろうと海の向こうだろうと飛んでいく。
何故なら私は桜の、桜は私の唯一無二、生涯の相棒だからだ。どれだけ離れていようと、心はあの頃と同じように、それぞれ違う方を見ながら並んでいるから。
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