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第24話

 雅弥と晴れて恋人同士になった葵は、さすがに隠し通すのは無理だと判断して、レギュラー番組の収録後にメンバー達にそのまま残ってもらった。  そして、覚悟を決めて雅弥の正体も含めて、自分達のことをみんなに説明した。  葵的には、かなりの重大発表な感じで話したというのに、意外にもみんなの反応は薄かった。  それどころか……。 「雅くんの正体? 知ってましたよ」 「えっ!」  平然とそう誠に言われて、葵の方が驚いてしまう。 「だてに王家から仕事もらっていないですからね。人間界での情報は、ちゃんと把握してますよ」 「僕もミヤのこと、気づいてたよ」  さらには悠陽までもそんなことを言い出す。 「ミヤが体調崩した時にも、確認したしね」 「え、そうなの?」  初めて知る内容に、葵が雅弥へと聞くと雅弥が頷きながら答えた。 「顔洗いに行った時、リーダーがついてきてくれて……その時にね」 「まあ、リーダーの場合、王子としてそれくらい気づいてないと逆に問題ですけどね」  誠が少し呆れたように言ったのに対して悠陽は得意げに頷いている。  そんなみんなの様子に葵が言葉を失っていると、雅弥が言いづらそうに口を開く。 「まあ、俺としては当然、王子のリーダーとお供の葵くんのことは知ってたし、なんとなくマコには気づかれてるかなって思ってたから、マコも同じ魔界の者なんだろうな……って」 「気づいてたなら、言えよ!」 (そのことで俺がどれだけ悩んだと思ってるんだ!)  そう思って葵が文句を言うと、雅弥は少し照れたように呟いた。 「だって、葵くんがあまりにも一生懸命に隠そうとするから……可愛くて……」 「なっ!」 「おっ、さっそくノロケですか?」  みんなの前でのいきなりの雅弥からの言葉に、ただでさえ恥ずかしいのに、さらにはニヤニヤと笑いながら誠にまでからかわれて、葵の顔が真っ赤になる。  そんな葵を見て、唯一、雅弥への葵の気持ちを事前に知っていた純が嬉しそうに『良かったね』と祝福してくれた。  そして、何かに気づいたように雅弥へと質問する。 「あ、でもさ、ミヤは俺のこと知ってるの?」  純が淫魔であることは一部の者しか知らないが、こうなったら雅弥に隠している意味はないだろう。  そう思っていたが、雅弥の反応はやっぱり落ち着いたものだった。 「詳しくは、この前リーダーから聞いた。それまでは、マコのパートナーみたいな感じがしたから、普通の人間じゃないとは思ってたけど」 「さすが、ミヤ♪」  雅弥の答えを純は素直に褒めたけれど、葵としてはいまいち納得いかない。 「何だよ、みんなして全部わかってたなんて。結局、何も知らなかったのは俺と純だけかよ」  少しいじけて言ったその言葉に、純から予想外の返事が返ってきた。 「俺、ミヤが人間じゃないって気づいてたよ」 「そっか、純も……えっ、何で? マコから聞いてたの?」  僅かに遅れて純の言葉を理解した葵が驚いて聞くと、純は首を横に振って答えた。 「だって俺の魅了(チャーム)の能力に、ミヤはかからなかったもの」 「……どういうこと?」  葵の問いに答えてくれた純の説明によると、誠とパートナーの関係にある純だが、お互いに忙しい時には能力を発散することが出来ずに、無意識のうちに純の人間……特に男を魅了する能力が働いてしまうらしい。  どうやら、雅弥にはそれが全く効かなかったために、狼男とまでは気づかなくても、普通の人間ではないと純なりに思っていたようだ。 (さすが、純らしい野性の勘というかなんというか……)  呆れや驚きを通り越して、葵は素直に感心してしまった。 「だから、葵ちゃんにパートナーとしてミヤなら大丈夫だよって言おうとしたのに、葵ちゃんったら逃げるんだもん」  そう言って膨れる純を見て、雅弥に連れ去られる直前に純が言おうとしていたのがそのことだったのだと葵は気づく。 「なんだか、一人で勝手に悩んで……馬鹿みたい」  そう落ち込んだ葵の肩に、そっと雅弥の手が置かれた。 「でも、そのおかげで葵くんが俺への気持ちに気づいてくれたんだし。これからは俺が葵くんのパートナーになるから、一人で悩まないで」 「それを言うなら、お前だって反乱者相手に一人で無茶しやがって……これからは俺がいるんだからな。少しは頼れ」  恥ずかしさを誤魔化すために少し素っ気無い言い方になってしまったかな、と葵が反省していると、それでも雅弥に葵の想いは伝わったらしい。 「うん。ありがとう」 「雅弥……」  そう言って嬉しそうに笑う雅弥の顔を見たら、葵まで嬉しくなってくる。 「お二人の世界作っているところ悪いですが……」 「俺達もいるんだよ~」 「いやぁ、葵くんも成長したなぁ」  いきなり、三人からそう突っ込まれ、葵はここが楽屋だということを思い出す。  葵が動揺していると、悠陽が葵達の前へときて、落ち着いた声で言った。 「マコと純ちゃんみたいに葵くんにもミヤってパートナーが出来て、これでやっと吸血鬼としての能力に目覚められたね。これからも、僕のお供としてよろしくね」 「悠陽くん……」  いつもののんびりとした悠陽ではなく、王子としての発言に葵が少し感動していると、今度は雅弥の方へと向いて悠陽が言う。 「ミヤは一人じゃないから。葵くんのこと、よろしくね……これでも、僕の大事なお供なんだから」 「わかってる。俺が葵くんを支えるから」  悠陽の言葉に『これでもって何?』と反論したい気持ちも少しあったけれど、雅弥が堂々と答えた言葉を聞いたら、葵は何も言えなくなっていた。  なんだか感動して葵が泣きそうになっていると、それに気づいたのか誠がその場の空気を変えてくれるように言った。 「まだ、ウルフ族の後継者争いだって完全に解決したわけじゃないんですからね。当事者が色ボケで油断しないでくださいよ?」 「わかってるよ」  言いながら誠に肘で突かれ、雅弥も笑いながら答える。 「何かあったら俺達も力になるよ! なんせ、こっちには魔界の王子がついてるんだから♪」 「おう、僕に任せろ」  その悠陽の言い方が、さっきまでの真剣な空気とは一気に変わって、いつもののんびりとした感じになっていて自然と葵にも笑みが零れてくる。 「……雅弥、お前は一人じゃない。俺はもちろん、悠陽くんやマコ、それに純もいるんだから。みんなを頼れよ」  自分達のより強い結束をお祝いをしようと純達が騒いでいるのを眺めながら、葵は隣りの雅弥だけに聞こえるように、そう言った。  自分達は一人じゃない。お互いを支えるパートナーだし、周りには頼れる仲間がいる。 「葵くん……ありがとう。俺、葵くんのパートナーになれて本当に良かった」 「それは、こっちのセリフだよ」  そう言うと葵と雅弥は自然と見つめ合い、三人にばれないようにこっそりと唇を重ね合わせたのだった。       ~ E N D ~

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