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犬猿なのに

犬と猿って犬猿の仲と言われるくらい仲が悪いというのは、もう昔々の話だと思うんだ。 「さるる、かわいい……」 ボク……猿山希壱(さるやまきいち)をふざけたあだ名で甘く呼ぶけんいぬ……戌川健二(いぬかわけんじ)の耳は黒い毛が三角形状にふわふわと生えていた。 「どこが?」 トゲがあるように聞くと、少し厚い下唇が弧を描く。 「メガネザルってよくわかる大きい目とか」 メガネザルのわかりやすい一番の特徴は小柄なとこだし、なんて思ったけど、自分でディスっちゃダメじゃんって1人突っ込みを入れていたら眉間にキスをされた。 「感じやすい丸い耳とか」 やわやわと知らないうちに触られていた猿耳に吐息とともにけんいぬが囁いたけど、ボクはくすぐったさで小さく震える。 「さるる、気持ちいいでしょ?」 ふふふと優しく笑ってくれるけんいぬにそうだと言えるほど、ボクは素直じゃない。 「全然、興奮のこの字も出ないし」 ボクは発情期がないΩ……出来損ないだから。 それでも、けんいぬは穏やかな微笑みを浮かべて身体を起こした。 「獣耳は出てきたけど、まだまだなんだね」 サイドテーブルから紫色の小瓶を持ってきて素早く蓋を取り、空気やけんいぬ自身に噴射していく。 それはボクが調香した香水……ボク専用の発情促進剤だ。 ベースのラベンダーの香りとほんのりと甘いチューベローズの香りがちょうどよく混じり合ったものを鼻腔から吸った途端、ズクンと身体が疼き始めた。 「身体、火照ってきたね……でも、楽しみはこれからだよ」 けんいぬの低く響く声を聞いて、潤んできた瞳で追うと、犬の黒くて固い鼻先に変わっていた。

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