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第1話
伽藍の末弟が山茶花の “番” を産んだという連絡が入り、山茶花の家は騒然とした。伽藍の末弟の伴侶は御手洗から迎えた歳下の番で、御手洗は吸血鬼の上位、伽藍は造血鬼の上位の家だ。
立派な血筋の造血鬼だ、と両親ははしゃぎ、家のものたちは迎え入れるための準備に追われていた。
「……番か……」
山茶花は騒々しく、慌ただしい家のものたちを一瞥して自室に入っていった。
* * * *
「サンザカ、ほら、お前の番だよ」
彩入が抱える嬰児は健やかな寝息をたてて眠っている。頑是無い嬰児――こんなに小さな生き物が山茶花の番。
山茶花はぼうっと番を見つめた。
「嬰児、は……こんなにも小さいものなんですね」
「ああ。――ほら、サンザカ、お前も抱っこしてごらんよ」
渡される嬰児を、彩入の見様見真似で抱っこするが、ふにゃふにゃとした生き物は抱っこするのが難しかった。
「……彩入さん、抱っこお上手ですね」
無表情で戸惑う山茶花に彩入はころころと笑い「昔、嬰児の番を抱っこしてたからねぇ」と後ろにいる番を振り返る。
彩入の番はもうひとりの嬰児を抱えたまま、ブスっと恥ずかしそうな顔をしていた。
「ああ、そういえば、そうでしたね。サカナは彩入さんの三〇〇歳下で……俺の一五〇歳下だったな」
山茶花同様、彩入の番――魚月も嬰児を抱っこするのは下手なようで、彩入に嬰児を押し付けた。
「でもまさか、自分の子どもが身近な個の番になるとは思いませんでした……。……大切に育ててくださいよ」
「安心しろ。まるでこの子が輿入れしてくるが如く、盛大な準備がされている」
「結納品でも贈ろうか?」
「ご冗談。おやめください」
「ふふふふ」と笑う彩入は嬰児を抱えたまま寝台に腰掛けた。
彩入を見つめる魚月の瞳は甘ったるいほどに番である伴侶と嬰児に対する愛情に溢れていた。
ふと、魚月が顔をあげて莞爾と笑いながら、「ああ、そうだ。山茶花さん。その子名前、まだ決めていないんです。どうです? ご自分で番の名前をつけてみては」と言う。
目を見開き、腕の中にいる番を見やり……、彩入の腕の中にいる嬰児を見た。
「……その子の名は」
「うん? ああ……、この子の名前は坊から魚の字をとって、真魚だよ」
「……なら、響きだけ似せて、麻生としましょう」
「あさお、可愛らしい響きだね。字は?」
「……麻布の麻に生きる、と。丁度、麻の花が、咲いているのをここに来る途中見ましたので」
「いい名前だね。大事におしよ」
「ええ」
不安定な腕の中、本能で番だとわかっているのか、嬰児は安心しきったような柔らかな表情で眠っている。
「……俺の、番……」
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