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5.エピローグ

「お前にいくら好きだと言われても、ずっと、お前はαで、俺がβだってことが頭から離れなかった。今は好きだと言っても、その内、Ωの番を見つけるんだろうと。俺は臆病で……だから、ずっと言えなかった」 「本当に……?」 儚い何かを壊すのを恐れるように、藤崎の声は小さく震えていた。 「本当に……俺を、好き?」 切望と恐れと微かな期待が複雑に絡み合った瞳に覗き込まれて、洋平の喉に熱い塊がグッと込み上げる。 「っ……あぁ」 藤崎の瞳に、ゆっくりと歓喜の色が滲み上がる。 ふわりと幸せそうに笑った顔に、ぎゅうっと心臓を掴まれた気がした。 多分、たった今、心底愛してしまった気がする。 「あぁ、本当に好きだよ。もうΩの本当の番が現れても、渡さねぇ」 「βかΩかなんて、どうでもいい。俺の番は洋平だ……」 「あぁ……あぁ、そうだな……。」 どちらからともなく唇が触れあう。 それだけで、全身が幸福に満たされていく。 けれど……人の欲には際限がなくて、すぐに穏やかな優しいキスでは足りなくなる。 ──足りない、もっと。もっと深く。 藤崎の唇を甘く食んで、緩んだ口の中に舌を滑り込ませる。 息もできないほど、深く。 抱き締めたい、今すぐ。溶け合うように肌を合わせて。 なのに、何かが邪魔をしている。強く抱き合っているのに、ふたりの間を何かが隔てている。 高熱があるかのように頭がふわふわして、それが何かなんてもう分からない。邪魔なものをとにかくどけたくて、グイグイとそれを引っ張る。藤崎の手も、洋平の体を覆う邪魔なものを、すごい力で引っ張っている。 ブチブチッと音がして、一瞬、ヒヤリとした肌は、すぐさま熱い何かにピタリと密着した。燃えるように熱い──藤崎の体。 「よう、へ……もっと…………っ、おねがい……一つになりたい……」 「おれ、も……っから、はや、く……っ」 藤崎の切実な、それでいて甘い欲望に濡れた声に、洋平の腰がズクンと疼いた。 * 「……ところで、神居部長がΩじゃないなら、お前、なんであの人の匂いに反応してたんだ?」 「そりゃ、自分の恋人が別のαの匂いさせてたら、匂いを付け直さないといけないから」 「は……」 「仕事の邪魔はしたくないから黙ってたけど、いつもムカついてた。アイツがいっつも洋平にベタベタしてるヤツかと思ったら頭にきてつい睨み付けたら、あっちも睨み返してきたけど、洋平、本当にアイツと何かあるわけじゃないよね?」 「な、ないない、それはないっ。ただ会社で世話んなってる上司ってだけでっ」 「ふーん?」 ──その日。 洋平には砂糖のハチミツがけのように甘い恋人も、誤解と勘違いを積み重ねたあげくマンションを出ていこうとしたことについては、さすがにキス一つでは許してくれなかった。

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