1 / 153

第1話  出会い

 昨夜からの雨はあがり、古い日本家屋の庭先でむせかえるような草木の匂いを嗅ぎながら、ぼんやりと辺りを見廻すオレ。 庭の一角では、土塀に寄り添う様に咲く 桔梗の花が。薄紫のしとやかな姿は、この純和風の庭を引き立てていた。しかし、そこ以外は手入れが出来ないのか、雑草が生い茂り高級そうな庭石を覆い隠している。 「おはようございます。お迎えに参りました。」 カラカラツと引き戸を開けて玄関口から声を掛ける。到着時間を知らせておいたので、鍵を開けてくれていた様だ。 しかし、踏みしめた敷石の固さはあの日と同じように来る者を足止めする。 「あ、ご苦労様です。」 雨戸の閉められた薄暗い廊下の向こうで、若い声だけが響いた。 - あ、、、 目を見張るオレの顔に気付き、その若者もしばらくオレを見る。 「……どうも、」と言って頭を下げると、彼は一瞬うつむき、又すぐに顔を上げた。 「ストレッチャー、そちらの縁側につけましたから、準備のほう宜しければ、搬送させて頂きます。」 同僚の長野さんが言えば、「はい、結構です。宜しくお願いします。」と言って、オレたちを促す様に奥の部屋へと案内してくれた。 障子戸を開けて目に飛び込んできたのは、介護ベッドに横たわる一人の中年男性。 あの日の面影はなく、骨と皮だけの白髪の男性は、オレ達に顔を向けると、コクリと首だけを動かした。

ともだちにシェアしよう!