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第34話 仕事です。
「それじゃあ、お願いします。」
そう言って、玄関で挨拶をするとオレの顔を普通に見る。
ちょっとはバツが悪いとか無いのかな・・・
「病院の住所は伺っていますから、4時半には着きますよ。直接行っていいですか?」
オレはいつもの感じで、仕事としての態度で接した。すると、
「内田さんっていうんだね。この間は名前知らないままだった。」
ヨシヒサくんが少し笑みを浮かべて言う。
「・・・では、荷物をお持ちしますから・・・。」
オレは彼の言葉には反応せず、肩に掛けたバッグを預かると、腕を回して靴を履くために屈んだ躰を支えた。
細い華奢な背中は、オレの片腕にすっぽり収まり、この間羽交い絞めにした事を少し後悔する。ちょっと力入れ過ぎだったな・・・骨が折れなくて良かった、と。
「ありがとう。」
そう言って靴を履き終えると、玄関を出た。
門から入った時にも目にしたが、庭の桔梗の花は無事に咲いていて、もうすぐ時期も終わるんだろうか、枯れた花も多くなっていた。
車に乗り込むと、オレはまっすぐ前を見て目的の病院を目指す。
出来るだけ通常業務の態度で接しようと思いながら、ヨシヒサくんの方を見ないようにした。
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