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第153話 これからもずっと_ 最終話

 入社7年目を迎えて、オレの下にも3人の新人がついた。 そのうちの一人は、今年大学を卒業したばかりの23歳。 背格好は、山岡さんが面接で気に入ったほどの大柄な青年だった。 きっと、オレも山岡さんの目から見たらこんな風だったのかと思う。 体格がいいっていうだけで落ち着いて見られるから不思議だ。 「成瀬くん、明日の打ち合わせするから・・・資料持って相談室来てくれ。」 「はい。」 そう言って立ち上がると、筋肉質の肩が揺れる。 どう見ても、格闘家に見える彼は本当に頼もしい。きっと患者さんを両方の手に抱えられるんじゃないのかと思う程。 オレたちの仕事も年々ニーズが増えてきて、それだけ抱える事情も増えたって事だろうけど、毎日忙しくこなしている。 本当は、居場所を転々と変えるんじゃなくて、年老いたら同じ場所で、同じ環境で暮らせるのがいいんだろうな。 子供や孫に気を使って、遠出も出来ず家の中に籠っているんじゃなくて、どんどん行きたいところに行ってほしい。 最後にいい思い出が残る様に、と思う。 オレたちは、少しでもそういう手伝いが出来るようにもっと頑張ろうと思った。 - - -  少し早めに帰宅すると、玄関へと続く庭先でミクがしゃがみ込んでいた。 「何してんの?」と」声を掛けると「ほら。」と、地面を指さした。 「え?」 そこに見えたのは、土から顔を出したばかりの桔梗の新芽。 ほんの数センチずつに伸びた新芽が綺麗に並んで生えていた。 「すごいねぇ、何にも手入れしていないのに、こんなところまで根をはってきたんだ。」 そう言うミクの顔は嬉しそうで。  昔、八つ当たりで花を散らした事なんか忘れてしまったか。 オレはそっと隣にしゃがみ込む。 「オレたちは、土の上で咲く花にしか目が行かないけど、本当は地面の下で頑張ってるヤツがいるって事だよな。土ン中で栄養を採ってどんどん根っこを伸ばしてる。」 オレは桔梗の新芽を指で触ると言った。 「そうだね、そう言えば昔母さんが言ってたっけ・・・桔梗の花言葉は『永遠の愛』とか『誠実』とか・・・それに家を守ってくれる紋だとかナントカ。俺には何の事か分からなかったけどさ。」 「へぇ、『永遠の愛』か・・・・。オレがミクに捧げる言葉だな。」 そう言って、ミクの顔を見るが、自分で言っておいて急に恥ずかしくなった。 「ふっふ~~っ!何赤くなってんのさ。・・・早く家に入ろうよ。」 横に居るミクがオレの肩にトン、と手を乗せながらいう。 「おお、そうだな。」 ミクと二人立ち上がると、春の風が心地よくて。 二人の間を緩やかに通り抜けると、茜色の空に戻って行く。 オレの手が自然にミクへと延び、その手を取ったミクはニッコリ微笑んで、そのまま二人は手を繋いで玄関へと向かう。 俺は願う。 明日も明後日も、この平凡な毎日が永遠に続くように・・・。 _____ 完 _____

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