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第152話 あれから…

長い夜が二人の身体を包みこみ、過去の闇を覆いつくしてくれる。 絡めた指は離れることなく、気持ちを繋いだまま。 朝の光が顔に当たり、オレはやっと目を覚ました。 日差しを浴びたミクの髪が光る。 その光に手を伸ばしたオレは、小さなミクの頭を撫でた。 * * *  「もう一年経つんだな・・・・・・」 ふいに声を掛けられ、記入する手元の書類から視線をあげれば山岡さんの顔。 「あ、お疲れ様です。・・・何が一年ですか?」 オレは首をひねった。 「あの藤谷さんの家に間借りしてからさ。一年は経つだろ・・・?」 そう言いながらも、山岡さんはオレの記入した書類に目を通している。 指でなぞって、間違いがないか確認したが、オッケーだったようでそのままオレの顔を見た。 「一年と3カ月ですか。・・・早いですよね、あっという間でした。」 「俺は早々にアパート借りて出ていくんじゃないかと思ったよ。あの子、元気?」 山岡さんが少し笑いながら聞くから、オレは「元気ですよ。」と答えた。 オレとミクが本当の意味で結ばれて、その後しばらくしてバイトを辞めたミク。 今年は4年生になり就職活動も始めている。 「内田くん頼りにされてるんだろう、親父っぽいからさ。」 「えっ!オレ、そんなに老けて見えますか?」 - オヤジの山岡さんに言われたら終わりだ。 焦るオレの前で、ははは、と笑って手を振ると、 「まさか、内田くんがおやじなら俺はすでにじじいだよ。見た目じゃなくて、存在感?そういうのがどっしりしてるって事。ここに入社した時からどっしりしてたもんな。」 「ああ、そういう意味ですか・・・まあ、褒めてくれてるんならいいですけど・・・。」 そうでなくても、ミクとの歳の差9年を埋められずジェネレーションギャップを感じているってのに、ホント焦る。 多分、大学に居るミクとオレの隣で笑ってるミクは違って見えるのかもしれない。 若い頃の遊びを経験してこなかったオレに、ミクは合わせてくれているのか。 暮らし始めの頃、ほとんど顔を合わせなかったのが不思議なくらい、今は顔を見ない日はなかった。夜遊びはしないし、寝るときも大抵どちらかの布団で一緒に眠っている。 「後で明日の打ち合わせするから、新人さん連れて来てな。」 「はい。」 オレはペコリと頭を下げると、山岡さんの後ろ姿を見送った。

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