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第1話
「白 、始まったー」
「あ、待って待って。今行く」
ソファーに寝転がってぼんやりCMを見ていた俺は、番組が始まったと同時に体を起こしてキッチンへと声を投げる。するとアイスを盛った器を両手に持って、白が早足でこちらへやってきた。
なんでかカップのものより三色入った大きなファミリータイプのアイスが好きなこいつは、いつも楽しそうに味を選んでは丁寧に器に盛ってくる。今日の自分の分はバニラとストロベリー。俺の分がチョコだ。
スプーンの刺さったチョコアイスを俺に渡した白は、ソファーに座る俺の脚の間に体を潜り込ませて座る。そこが落ち着くんだそうだ。
俺からすれば、同じ方向を向いている分顔が見えないのは少し残念なところだ。だけどこうやって密着しているのはいかにもカップルっぽくてにやけてしまうから、それを見られないと思えばいい体勢なんだろう。
こんな風に当たり前のようにいちゃついている俺たちだけど、表の顔は「コングラ」というアイドルユニットをやっていて、歌に踊りにドラマにバラエティと毎日忙しく過ごしている。俺たちの仲がいいのは世間一般にも知られているけれど、さすがに付き合っているということは誰にも話していない。アイドルとして仲がいいのは有りでも、本当に付き合っているとなると話は別だからだ。
今のところマネージャーにさえバレてはいないというのは、恋人になったのは最近でありながら、元々こうやってお互いの家に普通に泊まり合っていたからというところが大きいと思う。だから変わったのは、誰もいない家の中での態度だけ。むしろ、二人になった時は普段の抑制から解き放たれるという意味でもある。
今日も白の家でいちゃつきながら二人で鑑賞するのは、だいぶ前に収録したバラエティ番組だ。二人で今時の幼稚園を調べるというロケ。当然のように二人ともエプロンをつけて先生風のコスプレをしている。
幼稚園の先生の格好が恐ろしく似合う白、夜咲 白はコングラの爽やか担当。俺の可愛い恋人は、テレビの中では体操のお兄さんのようににこやかに手を振っている。高い身長も相まって、収録時は女児とともに先生方がうっとりしていたのを覚えている。普段は比較的おっとりとした奴だけど、これで意外と激しいダンスはお手の物というくらい運動神経がいいから侮れない。
ただやっぱり普段はのんびり可愛くて、今だって俺が差し出したスプーンに遠慮なく食いついてうまそうに味わっている姿なんてたまらなく愛しい。
そして今画面に映っている、渋々朝ご飯を作るホストみたいなのが俺、コングラのセクシー担当の朝霧 紅 。
コンサートでちょいと腰を振るダンスを見せれば悲鳴のような歓声が上がり、目が合えば孕むとまで言われるラブシーンの多いドラマ常連のエロの化身と呼ばれることが多い。基本ターゲットは女子高生や色々経験したお姉さま方だ。
「この白めちゃくちゃ可愛い」
「紅くんも似合うよ?」
「俺は間違っても幼稚園の先生じゃないだろ」
「んー確かにこれじゃあお母さんたちにモテすぎちゃうね」
同じエプロンをしているのに、俺だけ明らかに真っ当な先生スタイルではない。それでもその姿を見てとぼけたように褒めてくれる白が可愛くて、もう一口チョコアイスをくれてやる。
こんな風に当たり前にいちゃついている上に、隙あればそのまま白をソファーに引っ張り上げてエロいことをしてやろうと構えている俺だけど、そんな余裕が出たのはここ最近だ。
実を言うとエロの化身こと俺は、ほんの少し前、詳しく言えば半月ほど前に童貞を卒業したばかりだったりする。25歳。一般的にも遅いだろうが、10年近い芸歴がある上にその大半をセクシー路線でやってきた俺としたら恐るべき遅さだと我ながら思う。むしろ今までバレていないのが不思議なほど。
普通アイドルというものなら誰かと付き合っていたということがスキャンダルになるだろうに、俺の場合一途な相手がいる童貞だったということがバレる方が問題なのだからおかしなものだ。
ただその問題もこの間、白のおかげで無事解決できたからもう俺には恐いものなんかない。名実ともにエロの化身として後は回数を重ねるだけだ。
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