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第5話:授かりし新しい命

 それからというもの、アツヤはヨシカズに絡んでこなくなった。発情期も落ち着く周期になったとのことで、体調も戻ってきたらしい。一定の周期で発情期は訪れるらしいが、次もまた自分がなんとかしてやりたいと思っている。  約束を交わしたわけではないが、自分とヨシカズは恋人と呼べる関係になった。今までも一緒にいる時間は長かったが、二人の間に体の関係が追加された。それだけのことでも自分にとっては幸せだった。  平穏な日々は、ひとときの休息に過ぎなかった。 「エイジ、ニュースがあるんだ」  ヨシカズは嬉しそうに近寄ってきた。 「何、どうしたの?」 「へへへ」  その耳元で囁かれた言葉は、自分を一気に奈落に突き落とした。 『赤ちゃんができたんだ』  Ωは男女問わず妊娠できるということを忘れたわけではなかった。中に出されると幸せを感じると言うヨシカズに、自分はその能力がないからと気にも留めなかった。けれど、アツヤには当たり前のように別の能力があるのだ。 「家族には迷惑をかけてしまうけど産みたいって思ってるんだ」 「赤ちゃん……を?」 「うん。だって俺とエイジの大切な赤ちゃんだから……ダメかな?」 『俺とエイジの大切な赤ちゃん』  その言葉は、まるで鋭利な刃物のように自分の心を抉り、その傷口から流れる血は留まることを知らない。  生殖能力のない自分は、父親になれない。赤ん坊の父親は、自分と関係を持つ前に関係があった人間だ。 ーーアツヤ。  咄嗟に目の前のヨシカズの身体を抱きしめた。 「ど、どうしたの?」 「二人で育てよう。俺、一生懸命働く。何があってもヨシカズと子供を守るから」 「……うん」  自分の背中にそっとヨシカズの手がまわされる。  この幸せは絶対に手放したくはない。  それがいつか、運命に振り回されることになったとしても、何としても守ってみせると、心に誓った。 完

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