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第1話

 投票箱の中の最後の一枚に書かれた名前が読み上げられた瞬間、俺は自分の耳を疑った。 「……というわけで、本年度のミスN高はこの十人の中から選ばれます」  生徒会長の蓮(れん)が、ホワイトボードに書かれた十人の名前を、細い指先で示しながら言う。 「今年のミスN高にはナース服を着てもらうことに決まっていて、衣装は例年通り演劇部に作ってもらう予定で――」 「ちょっと、待ってよ!」  なんとか声を絞り出した俺に、生徒会室にいるみんなの視線が集まる。 「なにか意義が? 三年三組の風紀委員、瀬名綾人(せなあやと)くん」  生徒会長という役目の面を被った蓮はいつもとは全く違う慇懃な言い方で俺に訊ねてくる。 「大ありに決まってるだろ! なんでミスコンなのに、男の俺の名前が入ってるんだよ!?」  どう考えてもおかしいのに、蓮は感情を読ませにくい端整な顔で淡々と話す。 「開票した最後の一枚に瀬名くんの名前があったので」  我が校では文化祭前にミスN高の候補者が投票で選ばれる。例え一票であっても名前が上がれば候補者に並べられ、その中からまた投票で、今度はミスN高が一人選びだされる。  そして文化祭当日にはコスプレをして、ゆるキャラよろしく学校中を歩いて回るのだ。 「だ、だからって、男の俺がミスコンなんて……」  情けなさに半泣きになって抗議するも、隣に座っている二組の風紀委員が余計なことを口走る。 「いいんじゃね? 瀬名って見た目は美少女だし。それにこれくらいの面白みがあった方が選ぶ方も盛り上がる」  結局この意見に押し切られる形で、俺はミスN高の候補の一人になってしまった。

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