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第1話

「おめでたですね。おめでとうございます」  いや、ただの風邪だろ? どんな藪医者だよ?  僕はこのところ、頭痛と吐き気、めまい、倦怠感という体調不良のため、病院で診察を受けていた。だけど、適当に近くの病院に行ったのが、まずかった。  僕はオメガだから、男でも妊娠するなんて芸当も可能だ。  可能だけどさー、妊娠するには必要なことがあるでしょう?  恥ずかしながら僕は27歳になった今でも、まだ誰ともそんな経験がない。 「まあ……とにかく、腹部エコー検査をしましょう。  はっきり、分かるから」  いや、絶対違うからって思ったけど、まあ、エコー検査受けたら、妊娠が間違いって分かるよねって思ったから、僕は大人しく腹部のエコー検査を受けた。  そして検査が始まり……画面に移された僕の腹部の映像には、間違いなく小さな胎児の姿が映っていた。 「妊娠10週目だね」って、先生の言葉が虚ろに響く。  僕の頭は真っ白になった。  10週間前……。  今、九月の初めだから……。  あ……美紀姉ねえの結婚式か!  僕がぼんやりとしながら帰宅すると、あまりに元気がなかったんで、同居してる下の姉の智子ねえが「体調悪いなら、病院に行きなさい」と言うほどだった。  いや、もう行ってきたんですよ、姉さん。  僕は自室に戻って10週間前の記憶をさかのぼった。

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