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第2話

 6月末の土曜日の午後、箱根のホテルで上の姉、美紀ねえの結婚式があった。  両親が交通事故で急死したのは12年前。  美紀ねえは19、智子ねえは17、僕は15。  さらには下に12歳の祐樹と10歳の康浩がいた。  美紀ねえや智子ねえは、まだ自分たちだって子供だったのに、ずっと僕たちの面倒を見てくれた。  僕は桜花学園中等部の三年で、受験なしで高等部に進学するつもりが公立高校に受験したりとかしていろいろあったけど、特に美紀ねえは大学をやめて就職して、本当に苦労かけたから、結婚式にはぜったい出席したかった。  だけど僕は、式の直前に体調を崩した。  たしか式のあった土曜、僕は会場のすぐ横のロビーで、式場が開場するのを待ちながら、久々に会う従姉妹と他愛ない話をしてて。  なのに、めまいがしたかと思うと、急激に具合が悪くなっていった。  頭がクラクラして立っていられないほどで。  身体は熱っぽいし。  その日はそのホテルに宿泊する予定だったから、通りかかった従業員の人に頼んで用意してもらった部屋で休んでいることにしたんだ。  そうでもしないと救急車呼ばれそうだったし。  下の姉の智子ねえが付いていくって言ったけど、ちょうど式が始まるとこで、僕の具合も少しはマシになってたから、僕はなんとか一人で部屋に向かった。  あれ……まてよ?  そういや、部屋に着いた記憶がない。  その次の僕の記憶は、携帯が鳴ってる音だ。  僕は部屋で寝ていたところを、携帯の音で目覚めたんだ。  電話は智子ねえからで、体調が良くなってたら夕食に来いってことだった。  要するに、寝てる間にとっくに式も披露宴も終わっていて。  外を見るとすっかり夜になってた。  まだ熱っぽいし、体も痛かったけど、昼間よりはだいぶ良くなってて。  すごくお腹もすいてたから、僕はそのまま夕食に行ったけど。  そういや、すごく喉がガラガラで声が枯れてて、皆に心配されたんだった。  ……え?  あの時? 挙式と披露宴の間に?  僕、ホテルの部屋に行きつく前に誰かと出会って、そのまま事に及んだってこと?  僕、ヤリ逃げされたってこと? 「う……」  僕は急に胸が苦しくなって、涙をこぼした。  別に……純情ぶるつもりはない。  無いけど……ハジメテの記憶もなくて、誰かも知れない男の子供を妊娠してるなんて。  どうしてこんなことになったんだろう。  悲しくて悔しくて、涙は次々と溢れて、尽きそうになかった。

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