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選択の先 最終章・柒年の哀⑪※R18

「……待っ、て……待ってよ中也……」 「無理だ……もう止めらんねェよ……」  太宰は中也の手を取り、中也との未来を【選択】した。  太宰の選択を見届けた中也は其の手を取った儘ポートマフィアの傘下にある宿泊施設に太宰を連れ込む。上層部に知れ渡る事は必至だろう、其れでももう隠す事は何一つ無いと部屋に入るや否や王様寸法の寝台に太宰を沈め、其の上へと馬乗りになり上着を脱ぐ。  考える隙すら与えず降り注ぐ接唇に諫めようと手を伸ばす太宰だったが、其の手は容易に絡め捕られ敷布に縫い付けられる。  互いの咥内から響き渡る粘着質な水音と吐息が室内に響き渡る。粘膜が触れ合う度に肌は粟立ち、目の前の熱を求めて手を伸ばす。  其の一挙手一投足を愛おしむかの様に中也は太宰の手首に唇を寄せて視線を投げる。  ――モウ、二度ト此ノ手ハ離サナイ。 「中也……」  柔らかく、猫毛の様な明るい髪に指を通す。自分自身が今生きているという事を指先から感じる。  もっと――と、願い首筋に唇を寄せる。  此の短期間で様々な表情を互いは見た。其れ成りの付き合いがあろうとも、感情を露わにした怒りや悲しみ、嘆き、訴えを見たのは此の時が初めてだった。  恐らくはあの夜の海で、二人は一度死んだ。  完全に壊れて、其の欠片から作り出された第二の人生。其れでも失う事無く残り続けた互いへの想い。 「生まれ変わっても必ず手前を見付けて遣る」 「次は女性同士かもよ?」 「構いやしねェよ……」  仮令姿形が今と違う物だったとしても、其の魂を見紛う事は無いから。  躰の境界線なんて無くなって仕舞えば善い。  ――一つに成れたなら。   「待って、よ……」 「無理だっつってんだろ」  胸を押し返す太宰の制止を遮り、其の手を絡め取り中也の熱は太宰の体内を押し拡げて進んで行く。  子を成さぬ其の行為に何の意味が有るのかと問われれば意味等は元から存在せず、心だけでなく躰の奥迄繋がりたいという思いの表れだった。  其の場所が過去何人もの男の侵入を赦したか否かは中也にとって問題には当たらなかった。仮令何人の男を受け入れた躰であっても、心の底で求めて居るのは自分で有ると、今の中也ならば確信を持って云えるだろう。 「……っあ、く……ぅ……」 「……辛いか?」  元々力を込めて仕舞えば折れそうな程の細身の躰。何時でも相手の行動の先手を取り余裕綽々の太宰が此の時許りは小さく震え、何かを訴えるかの様に薄い唇から小さな呻き声を漏らす。  律動を止め額に滲む汗を拭うついでに顔中に接唇を落とす。太宰は全身が痛む軋みにも薄く笑みを浮かべて両腕を中也の首に絡ませる。 「……満たして呉れ、君で凡てを」  甘い囁きに中也の雄は強く脈打ち、内部から腸壁を押し拡げられ太宰の両脚は無意識の内に痙攣を繰り返す。  寝台の軋む音と二人の男の荒い息遣い、時折混ざる艶めいた吐息だけが室内に響き、何度目かの絶頂を太宰は中也の手中に放つ。 「……や、ほんと……も、無理っ……」 「此の程度でへばってんじゃねェよ」  怒りとも恥辱とも取れる表情を太宰は浮かべる。其の表情は中也の情欲を尚更煽り、息づく脈打ちと共に一回り自身を膨張させれば目に見えて解る程に太宰の腰が跳ね上がる。 「無理だってぇ……」 「バッ……手前が可愛らしい顔するのが悪ィんだろ」 「……して、ないッ……」  無自覚な此の小悪魔は、屹度此れからもこうして無自覚に他の男の劣情を煽るのだろう。  あの海で共に終わらせた方がマシだったと思う日が来るかも知れない。  簡単に縊り殺す事が出来そうな白く細い首に両手を添えると、太宰は恍惚に満ちた表情を浮かべる。  其の笑みが亦扇情的で、中也の興奮が高まると太宰はほんの少し苦しげに眉を寄せる。  顔の両側へ力無く投げ出された両手の片方に指を絡ませれば、ぴくりと小さく跳ねて太宰が握り返す。  ――――愛シサヨ。  此の選択が誤りでは無かったと、何年か先笑い話に出来るように。 「なァ太宰、愛してる」

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