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第3話

それから数日後。 皆が帰った後の座敷で、月次郎と正吾は座って豊師匠が来るのを待った。 「おう。すまねぇな、遅くに」 座敷に現れた師匠は二人にそう言うと早速、床に紙をひろげる。 丹念に擦られた墨の香りがした。 「正吾はともかく、月次郎は初めてか」 「はい」 「そうか。じゃ準備してきとくれ」 スッと二人は立ち上がり、着物を脱ぎ(ふんどし)一枚というあられの無い姿となった。 月次郎は緊張した面持ちだ。 「何も緊張するこたぁねぇ、知った顔じゃねぇか」 正吾はカカと笑い、月次郎の後頭部を叩く。 知った顔だから緊張するんだと月次郎は正吾を少し睨んだ。 「所詮は真似事よ。本当に営むわけじゃねぇ」 それに、師匠に描いてもらえるなんて、なかなかないぞと正吾は真顔になってそう言う。 「煽てても何も出ないぞ、正吾」 師匠はフッと笑い襷掛け(たすきがけ)を終えて紙に体を向ける。 それが合図となった。 「燕返し」 師匠がそれだけ言うと正吾は月次郎をまず俯せに寝かせる。 そこから片脚を持ち上げて自分の太もものあたりで止めた。 大きく月太郎が股を開いたような形となる。 その月次郎の股にピッタリと正吾が挿入する様に自身を引っ付けた。 (わわッ) 人前で、しかも師匠の前でこの格好は恥ずかしくて月次郎は首まで真っ赤になっていた。 「なあにすぐ済むさ」 正吾は笑いながらそう声をかける。 「深山」 正吾が月次郎の両脚を掲げ、股をV字に広げ自分の肩に乗せる。 そしてそのまま挿入の格好。 「こりゃ、こっちからだと丸見えだなア」 「い、いちいち言わないでください!」 「仏壇返し」 月次郎が上半身を折り曲げて床に手をつき、正吾が後ろから挿入する形だ。 「あてて」 「…おまえ、身体固えなあ」 「流鏑馬(やぶさめ)」 正吾が持って来た手ぬぐいを月次郎が受け取る。仰向けになった正吾に上からまだがり月次郎から挿入させる形だ。手ぬぐいは正吾の首に巻きつけて引っ張っていく。 次々、出される体位の名前にすぐ形を作っていける正吾に、月次郎は驚く。 何でこんなに知っているんだろう。 吉原に行くと言っていたが、通い詰めているのだろうか。 そんな事を思いながら、次の体位を作り上げる。 結構身体を使うので気がついたら、汗をかいていた。 何よりどうしても羞恥と生理現象は隠せない。 「吊橋」 月次郎の胴を空に浮かせ、腰を支えて持ち上げる。正吾が膝立ちになり月次郎に 挿入する格好だ。 今までより密着度が深く感じられた。 (これ…) 相手は正吾だ。 なのに、この疼きはなんだ。 結構な枚数の絵を書き上げて、師匠は満足そうに筆を置く。 気がつくと半刻(一時間)もこんな調子で二人は「営みの真似事」をしていた。 「今日はこれで。二人共、すまねえな」 「いえ、またおっしゃってください」 師匠が身支度を始めて、正吾は後片付けをする。 「…わ、私はちょっと(かわや)へ…」 月次郎は慌てて部屋を出て行く。 その様子を見て、師匠は少しため息をつくと正吾について行くように促す。 「後は頼んだぞ。明日の仕事に師匠が出ねえようにな」 「はい」 分かってまさあ、と正吾も部屋を出て行った。

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