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第6話

二人の大師匠が先日亡くなり、実質の一番弟子の豊師匠を跳ね除けて、大師匠の長男が勝手に名をついだ。これに怒った豊師匠は絵師の慣習を破り、こちらもまた勝手に二代目を継いだのだ。 故に二代目が二人いることになった。 この強引なやり方に昔気質のヨシを始め弟子達が反発したのだ。 ヨシは代々の落款を使わず自分のオリジナルの落款を使い始める。 「アイツの弟子などと思われたくねぇからよ」 捨てるように答えたヨシ。 その頃からヨシの作品は急激に陽の目を浴び出した。キッカケは月次郎が見た武者絵。 やはり、売れに売れたのだ。 先の騒動とヨシの作風、人柄に惹かれ鞍替えする弟子が数名手を挙げた。 その中に、月次郎もいた。 鞍替えをする弟子たちに師匠は怒るでもなく冷静だった。 『描きたいモノがあっちにあるならばそうすれば良い』 冷たく捉えがちではあるが故に豊師匠から離れた弟子は少なくなかった。 月次郎がヨシの弟子に鞍替えすることを、他の仲間から聞いた正吾は仕事終わりにものすごい剣幕で月次郎を責める。 「お前ッ、どういう了見だ!こんなに世話になった師匠から離れるとは…!」 仕事を終えて身支度を整えていた月次郎の胸ぐらを掴み、まくし立てる。 俺にも内緒で何してやがる!と怒鳴りつけた。 「…兄貴に言わなかったのは、謝ります。ですが私はあの人の作風に惚れたんだ」 何を、とさらに摑みかかる正吾に冷静に月次郎は答える。 「ここに居ても描きたい絵はみつからない。欲しいものは…手に入らない。ならここに居る必要は無いんですよ」 そうでしょう、と月次郎は正吾の瞳を覗き込んだ。 黒と茶色の瞳が正吾を射る。 あの日、見た潤んだ瞳を思い出し正吾がハッとする。 「お前の欲しいものって…何だ」 「…手に入らないものです。手を、離してください」 視線を逸らし月次郎は俯く。 ゆっくり手を離すと月次郎は襟を正す。 離れていく月次郎に、正吾は何も言えない。 ただ感じるのは怒りと喪失感だ。 手が出るより…脚が出た。 「う、わっ!」 月次郎の背中を正吾は思い切り脚で蹴り上げた。 堪らず前方へ倒れる月次郎に脚を載せ、正吾は怒鳴る。 「金輪際、お前とは絶交だ!顔も見せるな!」 言い放つと正吾は部屋を後にした。 背中と胸の痛みにうずくまる月次郎。 部屋の雪見障子からは月の光が畳を照らしていた。

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