1 / 94

第1話 クラスメート

 冬多(とうた)は泣きながら目を覚ました。  とても怖い夢を見ていた気がしたが、内容は思いだせない。  広い窓を覆うカーテンの隙間から明るい朝の日が差し込んでいた。  冬多は憂鬱な溜息をつく。  ……今日もまた、長い一日が始まる。  進一郎(しんいちろう)があくびを噛み殺しながら、通学路を歩いていると、数人の女子生徒たちが、うれしそうに声をかけてきた。 「おはよー、進一郎くん、寝不足ー?」 「……ああ。ちょっと遅くまで本読んでたから」  答える彼の口調は素っ気ない。  それでも女子生徒たちは楽しそうに進一郎へ話しかける。 「うそー。どんな本読んでたの? 恋愛小説とかならあたし、貸して欲しいな」 「あっ、あたしもー!」  かしましい少女たちに進一郎は愛想なく一言。 「ホラー」 「えー? 夜にホラーなんか読んで、怖くないぃ?」  素っ気ない進一郎の言い方と対照的に、女子たちは明らかに憧憬のまなざしと声を彼に送っている。  それもそのはず、進一郎は垢抜けた美貌の持ち主だからだ。  切れ長の目は知的で、すっきりと鼻梁の通った形のいい鼻、少し冷たそうな印象を与える唇、シャープな顎のライン。すらりとスリムな長身は綺麗な八等身。  進一郎は、少年っぽさをほんの少しだけ残した青年の色気をまとった、文句のつけようのない美形だった。 「別に。オレ、ホラー好きだから。……あ、矢島(やじま)、おはよう」  最後の言葉は、進一郎たちの横をノロノロと通り過ぎようとするクラスメートの男子へ向けられたものだった。  進一郎に声をかけられた男子生徒は、ビクッと体を強張らせると、消え入りそうな声であいさつを返した。 「……おはよう、佐藤(さとう)くん……」  そして、そそくさと、まるで逃げるように去っていく。

ともだちにシェアしよう!