2 / 94

第2話 怯える小動物のような友だち

 男子生徒のおどおどした後ろ姿へ、女児生徒たちが馬鹿にしたようなまなざしを送りながら、口々に言う。 「トロ多って、ほんときもーい。特にあのダサい眼鏡と鬱陶しい前髪、どうにかならないのかなー。進一郎くんって、よくトロ多に構ってるけど、やめときなよー」 「そうよー。進一郎くん。あんまり優しくすると、トロ多、進一郎くんのこと友だちだって勘違いしちゃうよー」 「オレ、矢島とは友だちだけど?」  進一郎はきっぱりとそう言うと、呆気にとられている女の子たちを尻目に、さっさと歩きだした。  少し前を歩く矢島冬多の後ろ姿を見つめる。  彼は、なにかに怯える小動物のように、いつもビクビクと体を縮こませている。  ……いったいなにをそんなに怯えているのだろう、あいつは。  進一郎が、冬多のことを気にかけ出したのは、二年生になったばかりの頃だった。  冬多はその頃から、今と同じように、体を小さくしておどおどとしていた。  黒色の太いフレームの眼鏡をかけ、前髪はその眼鏡の半分ほどを覆う長さで、そのうえいつもうつむき加減なものだから、顔立ちがほとんど分からない。  彼らの高校は、目立って素行の悪い生徒がいないせいで、あからさまないじめはなかったが、冬多は『トロ多』などとあだ名され、一年生の頃から、なにかにつけ、からかいの的には、なっていたようだ。  進一郎はクラスが違っていたので、一年生のときのことはあまり知らないのだが。  でも、基本的に彼はいつも一人で孤立していた。親しくしている友人もいないし、休み時間でもほとんど自分の席から離れずに、いつも小説の文庫本を黙々と読んでいる、そんな少年だった。  初めて冬多と話をしたのは、休み時間、進一郎が彼の席の横を通ろうとしたとき、机の上に置いてあった文庫本を制服の端にひっかけ、落としてしまったときだった。  

ともだちにシェアしよう!