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第2話 怯える小動物のような友だち
男子生徒のおどおどした後ろ姿へ、女児生徒たちが馬鹿にしたようなまなざしを送りながら、口々に言う。
「トロ多って、ほんときもーい。特にあのダサい眼鏡と鬱陶しい前髪、どうにかならないのかなー。進一郎くんって、よくトロ多に構ってるけど、やめときなよー」
「そうよー。進一郎くん。あんまり優しくすると、トロ多、進一郎くんのこと友だちだって勘違いしちゃうよー」
「オレ、矢島とは友だちだけど?」
進一郎はきっぱりとそう言うと、呆気にとられている女の子たちを尻目に、さっさと歩きだした。
少し前を歩く矢島冬多の後ろ姿を見つめる。
彼は、なにかに怯える小動物のように、いつもビクビクと体を縮こませている。
……いったいなにをそんなに怯えているのだろう、あいつは。
進一郎が、冬多のことを気にかけ出したのは、二年生になったばかりの頃だった。
冬多はその頃から、今と同じように、体を小さくしておどおどとしていた。
黒色の太いフレームの眼鏡をかけ、前髪はその眼鏡の半分ほどを覆う長さで、そのうえいつもうつむき加減なものだから、顔立ちがほとんど分からない。
彼らの高校は、目立って素行の悪い生徒がいないせいで、あからさまないじめはなかったが、冬多は『トロ多』などとあだ名され、一年生の頃から、なにかにつけ、からかいの的には、なっていたようだ。
進一郎はクラスが違っていたので、一年生のときのことはあまり知らないのだが。
でも、基本的に彼はいつも一人で孤立していた。親しくしている友人もいないし、休み時間でもほとんど自分の席から離れずに、いつも小説の文庫本を黙々と読んでいる、そんな少年だった。
初めて冬多と話をしたのは、休み時間、進一郎が彼の席の横を通ろうとしたとき、机の上に置いてあった文庫本を制服の端にひっかけ、落としてしまったときだった。
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