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第3話 二人はホラー小説マニア

「あ、ごめん、矢島」  そう言って、進一郎がその本を拾い上げたとき、チラッとタイトルが見えた。 「あ、う、ううん」  冬多は消え入りそうな声で答え、真っ赤になってうつむきながら、本を受け取り鞄の中へ入れた。  授業が始まるチャイムが鳴ったので、進一郎もそのまま自分の席へ着いたのだが、彼が読んでいた本は、進一郎も大好きな作家のホラー小説だった。  そのとき思ったのだ。  矢島とは話が合うんじゃないか、と。    ホラー小説を話題に盛り上がれる友人というのは、案外少ない。  やはり漫画のほうを好む友人たちのほうが多いからだ。  進一郎も漫画は読むが、小説のほうがはるかにたくさん読むし、好きだ。……それもホラーというジャンル限定で。  子供のころから怖い話が大好きで、ホラー小説は国内、国外問わず、かなり集めているほうだ。マニアックなファンに近いので、同好の士を見つけるのは難しい。  それからは、冬多が小説を読んでいるとき、こっそり覗き込むようになったが、いつもホラーを読んでいる。  一度ゆっくり話をしてみたいのだが、当の冬多が極端な引っ込み思案――の範囲を超えているようにも思えるが――なため、ずっとそれも叶わずにいた。  現在、進一郎の席は、冬多のななめ後ろで、いつも彼の姿は視界に入っている。  授業中、教師が黒板に書いていることを、いつも、冬多は真剣に書き写している。  でも、黒板にたくさん書き込むタイプの教師の場合、彼がまだ書き写している途中で、黒板の文字を消されてしまうことがある。そんなとき冬多は、慌てて、それから肩をガックリと落としてしまう。  初めの頃こそ、『おもしろいやつ』と見ていた進一郎だったが、冬多のそんな場面はしょっちゅうで……。  だんだん放っておけない気持ちになった来た。  だから今では、そういうとき、おせっかいだとは思いつつ、ノートを貸すようになった。

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